▲歩道にはめ込まれたホタテ貝のマーク。サンティアゴへの聖なる道を示すシンボルだ。
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切迫尿意の恐怖
【12日目12年9月20日(木)晴れLogronoNajera29km/累計192.5km】

 5時起床。パンとチョリソとトマトの簡単な朝食。6時過ぎに出発。
 お祭りの余韻で若者が街にたむろして騒いでいる。道にはパトカーが止まっている。警官の姿もよく目にする。お祭りなので、治安にはそれなりに気を配っているようだ。

▼朝食はこんなもんだ。パンとチョリソは定番。そして今日はトマト。ほかにリンゴ、桃、ミカンなど、果物があればそれを添える。朝食を食べない日もある。そんなときは早い時間にバルで休み、そこで軽食をとる。

 5時起床、6時出発のパターンができつつある。それはそれでいいのだが、問題は出発するときはまだ暗いこと。標識を見つけるのがむずかしいのだ。とくに都会は見逃しやすい。

 今朝は、昨日のうちに下見をしておいたので、最初はまったく不安がなかった。ログローニョの街では、歩道にホタテ貝のマークや黄色い矢印があるので、それに従うだけだ。

▼歩道にはめ込まれた巡礼路を示すプレート。こういうやり方がいちばんわかりやすい。

 が、油断大敵。一度、見失うとお手上げ。歩いても歩いても次の矢印が現れない。そんなときは、最後に見た矢印まで戻るしかない。
 今朝もそうしたのだが、次の標識がどうしても見つからない。しかたなく勘で歩きだし、しばらく歩くと、車道をはさんだ向こう側の歩道に人がやってきたので、大声で「サンティアゴ、カミーノ、カミーノ?」と聞くと、まっすぐ、まっすぐと身振りで示す。

▼ペンキで描かれた黄色い矢印。これも大変ありがたいのだが、この矢印はどう解釈すればいいの?

 よかった。これでひと安心だ。
 方向が同じなので、車道を隔てて5分ほど一緒に歩いたら、大声で何か言い、左を示す。そして、彼らはまっすぐ行ってしまった。
 教えてもらわなければ、わたしもまっすぐ行っていただろう。そっちのほうがメインの道路だし、知らないとついついそちらに行きそうだ。

 で、左に曲がり、しばらく歩くと二差路。そこでまたわからなくなる。標識はまったくない。呆然としていると、やってきたトラックの運ちゃんが、スピードを落として大きく左方向を指す。
 グラシアス!
 そのとおりに進むと、あった! ようやくホタテ貝に再会! さっき勘で歩きだした道は間違いで、ホタテ貝が示す巡礼路は別にあったのだ。

 ともあれ、本来の巡礼路に戻った。あとは順調。ほどなくログローニョの郊外に出てしまったので、それほど入り組んだ道はない。ほとんど一本道だ。

▼1時間半も歩くと人家はなくなった。こんな道なら迷うこともなく安心して歩ける。太陽はまだ昇っていないが、今日もいい天気になりそうだ。

 8時ごろ、池のほとりの長い道を歩いていたら、突然、尿意をもよおした。持病の切迫尿意だ。たぶん、池があるなあ→水がいっぱい→水→おしっこ! という無意識の連鎖反応だと思う。なにしろ、この反応は、水道をひねって水を出したとたん、それまでなんともなかったのに急に尿意をもよおすほど敏感なのだ。

▼こんな道で尿意をもよおしたら、なす術もない。あの林まで……もたないかも。

 無意識だからこの反応はとめようがない。振り返って確認したら、すぐ近くに後続の人たちが歩いている。

 ダメだ、ここではできない! そう思ったら、とたんに尿意が頂点めがけて高まる。
 ガンバレ、ガンバレ。池の先の林に駆け込む。あ~。今回は、ほんのちょいだがモラシてしまった。……病気だからね、こればかりはどうしようもないよ。

 あとしまつ? 歩いていれば、汗と一緒になって違和感はなくなる。
 ま、気にしない。どうせ夕方には洗濯するのだから、あと数時間の辛抱だ。

 それはともあれ、旅のトイレはどうする? これは一番の難題だろう。

 まず、大のほうは、朝一番の習慣をつけるのがベスト。ホテルなりアルベルゲなりを出発してしまったら、まず大は不可能。そう思ったほうがいい。お遍路旅でそれを痛感したが、外国ではなおさらだ。

 わたしは長旅に出る1か月ほど前から、洗顔をすませたら即トイレ――で、強制的に体に言いきかせ、なんとか習慣化している。今回もまあまあの感じだ。
 コツは、起きたらすぐにコップ一杯の水を飲むこと。冷たい水の刺激がいいみたいだ。

 小は、バルのトイレが原則。もちろん大もできるが、紙がない、汚い、詰まっている……で、役立たずのこともある。わたしは大で使ったことはほとんどない。

 バルのトイレが使えればそれにこしたことはない。だが、旅の道中ではそうもいかないことのほうが圧倒的に多い。やむをえず、木陰のトイレも。これは場所とタイミングがむずかしい。それにちょっぴり罪悪感も。

 とはいえ、わたしのように、いつなんどき、緊急事態におちいるかもしれず、こればかりは勘弁してください、と言うしかないのが正直なところだ。

 これは、ほかの男どもも同じようで、見ていると、だいたい道をそれた木陰でコソコソやっている。公にはできないが、サンティアゴ巡礼の真実ここにあり……というほどでもないか。

 男でもこんな具合だから、ご婦人方の苦労は察してあまりある。深く詮索したことはないけれど、巡礼の長旅は、女性にとっていろいろな意味で苦労の連続なのだ。
 ひとつだけ巡礼路で気になったのは、これぞと目星をつけた路傍の茂みには、おびただしいティッシュの残骸があること。これはご婦人方のせいだと推察できる。

 どうもわたしの感覚では、巡礼は聖なるものというイメージがあり、それが、捨てられたティッシュの群れでぶち壊しになってしまうのがイヤなのだ。

 なんとかならないの?
 なんともならないよ。5km、10km、人家がないような場所だもの、まさに出物腫物ところ嫌わずの類いだから、我慢にも限界がある。まあ、いずれは大地に返ってくれるだろうから、よしとしようぜ。
 自分だって、おしっこは肥料だと思ってくれよ、と草木に言い聞かせているくせに、他人に文句を言える筋合いじゃない。

 つれづれによしなしごとを考えつつ、池を過ぎて1時間、高速道路沿いの巡礼路を歩いていると、金網に小枝が無数に刺さっているのに気づいた。

▼木の枝がはさまった汚らしいフェンスだなあ。そう思って歩いていたが、ガイドブックに十字架うんぬんと書いてあったのを思いだした。よく見ると、たしかに十の形に小枝を組み合わせある。だれが始めたのかは知らないが、延々と続いているのには驚きあきれる。

 少し疲れてきた。3時間歩いて、ようやくナバレッテの町が見えてきたようだ。どうも疲れが激しい。昨夕からナヘラは無理だと思っていた。やはりひとつ手前のベントサで泊まろうか。

▼あれはナバレッテの町だろう。朝の太陽はそれほど暑くはないのに、なんだか疲れる。

 予定を変更して、今日はここまでにしようと思ったベントサには、12時少し前に着いた。巡礼路沿いに店を構えるバルでゆっくりと昼食。終わったらアルベルゲへ直行だ。

 1時間以上も休んでおなかもいっぱいになった。すると、なんだか元気が出てきた。
 昼食が終わった仲間が三々五々出発していく。それを見送っているうちに、わたしだけ弱音を吐いていいのか、という気持ちになってくる。

 よし、いっちょう、やってやるか!

 というわけで、気持ちを切り替え、当初の予定どおりのナヘラへの道を歩く。
 だらだらと、どこまでも続く小砂利の道。けっこうきつい。が、やめておけばよかったなんて思うなよ。そう思うとますますきつくなる。

▼疲れているときのこういう道は気持ちを萎えさせる。あーだ、こーだ考えないで、無心に歩くのみ。

▼巡礼仲間の存在は、疲れているときほど大きい。共にがんばろうという気にさせてくれる。

 きついなりになんとか歩いていると、遠くに町が見えてくる。ナヘラ到着3時。いつもより遅い到着だ。29キロ踏破。疲れきったのでアルベルゲはやめて、今日もオスタル泊まりにした。33ユーロ。まあまあというところかな。

▼川沿いに広がるナヘラ。町の背後に赤土の崖があるので、ナヘラは赤い町と呼ばれているそうだ。

 疲れたけど、結果オーライ。歩いてよかった。10時就寝。
 おやすみ…………。

▼スペインで初めて見つけたノンアルコールのビールテイスト飲料。0.59ユーロだった。2本買って部屋で飲む。味は……微妙。ともあれ今日の締めくくりは乾杯ができてよかった。


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     ◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ