▲ペルドン峠の頂きに並ぶ巡礼者のモニュメント。パンプローナから歩くこと3時間で到着。ここからの眺望は最高だ。 |
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小麦畑は茶色の世界になっていた 【8日目◆12年9月16日(日)◆晴れ◆Pamplona➔Puente la Reina◆23.5km/累計91.7km】 5時半に目が覚める。チェックアウトは7時からなので、出発準備をしてしばし待機。 その間に朝食。といってもパンとチョリソと水だけの簡単なもの。 7時過ぎにホテルを出る。いい宿だったし、いい休日だった。 外はまだ真っ暗。通りを歩いているのは巡礼仲間だけだ。この時間だと半袖はやや寒い。長袖に替えるのも面倒なのでそのまま行くことにする。お日様が出ればあったかくなるだろう。
大きな公園の中を通り、川を渡るとナバーラ大学が見える。この大学のオフィスではスタンプをもらえるらしいが、まだ8時前だ。オフィスは開いていないだろう。通過。 このあたりがパンプローナの郊外らしく、宅地に代わって畑地が見えてくる。歩いていると立ち枯れたヒマワリが無残な姿をさらす畑があった。9月の中旬だとこうなってしまうようだ。
日が昇り、少しずつ気温が上がる。空の青みが増し、くすんだ風景がだんだん輝いてくる。歩いていていちばん気持ちのいい時間だ。 サンティアゴの巡礼路は東から西へと向かうから、お昼ぐらいまでは太陽を背にして歩くことになる。夏だと首筋を焼かれるので、帽子のたれは必需品らしいが、今の季節はそれほどでもない。使わなくても大丈夫だ。 2時間歩いて小休止。あたりは一面、収穫が終わった小麦畑だ。大都会パンプローナから8kmぐらいしか離れていないのに、人家は一軒も見当たらない。どちらを見ても、地肌をむきだしにした畑、畑、畑。その中を白い巡礼路が地平線の果てまで続いている。
9時11分、さて出発だ。 10分ほど歩いたところで畑の中に人家を発見。遠目にも立派な建物だが、なんだろう……。まあ、いいか。先を急ごうぜ。
そこを過ぎるとすぐに、稜線に立ち並ぶ風車が目に入ってくる。ガイドブックには、標高780mのペルドン峠に設置された風力発電の風車だと書かれている。
10時19分、ペルドン峠に到着。小休止。リュックを背負ったまま眺望を楽しみ、写真を撮る。巡礼者をかたどったモニュメントが珍しい。
わたしも峠を下り、再び小麦畑の中の巡礼道を歩く。おなかがすいてきた。時計を見るとまだ11時だが、お昼にしようか。 刈り取ったあとの畑にちょうどいい木陰がある。あそこで食べよう。
お昼休みをゆったりと1時間とり、12時に出発。いい昼食だった。 ただし、食事で気をつけることがある。塩分過多と油分過多、野菜過少。 まず、チョリソを筆頭にハムやソーセージなど、パンにはさむものはとにかく塩味が濃い。保存のためだろうが、汗をかいた体には塩味がおいしく、ついつい食べすぎる。 それと、スペイン料理はなんでもかんでもオリーブオイル。バルで食べる料理はとくにそうだ。オーバーにいえば、オリーブオイルの海の中に食べ物が浮かんでいる。しかしながら、これがまたねっとりした味でたまらなくおいしい。で、ついつい食べすぎる。 とどめが、外食の定めである野菜不足。料理のつまに野菜はつくが、申し訳程度で、とても十分とはいえない。 というような事情なので、よくよく気をつけないと、とんでもないことになる。スペインの娘さんはみんなほっそり美しいのに、おばさんには貫録十分な人が多い。わたしは食事が影響しているとにらんでいるが、それはともかく、健康な体で旅を完遂するために、自分なりの規則を決めた。 非常食兼用のチョリソは外せないから、これはやもうえない。 ただし、バルでボガディージョ(日本でいうところのサンドイッチ。フランスパンに具をはさんだスペインの定番ファーストフード。これなしでは旅は続けられない)にはさむのは、トルティージャ(スペイン風オムレツ)かトマトなどの野菜類のみ。チョリソやハムは入れないと決めた。
オリーブオイルも極力避けるとして、まったく摂らないということは不可能。料理に入っていればしかたがない。ただし、自分からそれをかけることはしないと決めた。 野菜だけはなんとかなる。バルやレストランでは必ず「サラダ」を頼むこと。そして、果物を常備。この時期は桃がおいしかった。ただ、リュックが重くなるのが欠点だが。 歩きはじめて1週間がすぎ、自分なりの規則を守りつつ、食事のパターンはだいたい固まってきた。不足する栄養分は持参したサプリメント(マルチビタミン・ミネラル)で補う。 がん養生中の身なので、本来なら玄米・菜食を続けるべきだが、スペイン巡礼中にそんなことができるわけがない。2か月足らずだし、ここは目をつぶることにして出かけてきた。なんとかなるだろうよ。 午前中に引き続き、見渡す限りの小麦畑の中をただただ歩く。収穫後の茶色い大地。ゆるやかなアップダウン。スペインは広いなあ。
が、これで終わりではない。 まずは公営のアルベルゲでスタンプを押し、ホテルを紹介してもらわなければならない。今日はなんとなくアルベルゲには泊まりたくなかったのだ。 2連泊したホテルが快適だったせいもあるのだが、プライバシーゼロというのは、やはりこたえる。なるべくならホテルでゆっくりしたい。 アルベルゲにするか、ホテルにするか。巡礼旅では、この選択はなかなかやっかいだ。 旅費をおさえるならアルベルゲ。公営なら5ユーロ前後で泊まれる。ガイドブックによれば、無料のアルベルゲもあるとか。私営でも10ユーロぐらいのようだ。 しかし、アルベルゲは集団生活で、規則も厳しく、プライバシーはいっさいないと覚悟する必要がある。 逆なのがホテル(やそれに類するオステル、ペンシオンなど)で、宿泊費は高いが、のんびりくつろげる。 どちらにするかは、ふところ具合と考え方しだいだな。 ここまでの体験でわたしが決めた方針は、半々ぐらいにしようか、というもの。一日おきが理想だが、ホテルがないところはけっこうある。一方、アルベルゲはどこにいってもあるみたいだから、まずホテルをさがし、ダメならアルベルゲ、そんな方針にした。 町の中心のマヨール通りを直進し、アルガ川にかかる王妃の橋を渡る。小さな町だが昔は街道町として栄えたそうで、その面影は残っている。
橋を渡るとすぐにきつい上り坂が待っていた。ハアハアいいながら、ようようアルベルゲ着。 ここまででけっこう疲れたのに、とどめのひと悶着でぐったり。差しだしたクレデンシャルにスタンプは押せない、と言われたのだ。 「そんなバカな!」(と、心の中で叫ぶ) 確かガイドブックには、アルベルゲでは通過証明のスタンプを押してもらえる、と書いてあったぞ。が、日本語のガイドブックを見せてもせんのないこと。結局、むこうの言い分は、「アルベルゲに泊まらない人にはスタンプは押せない」ということ。 スタンプを押すぐらいなんでもないだろうに。ぶつぶつ文句を言いながら町の中心部に戻る。まあ、ホテルは紹介してくれたからよしとするか。それにしても合点がいかない。 アルベルゲ、あるいはそこの管理者(オスピタレロ)は、巡礼者の守護を役目としている頼れる存在――と思っていた。だが、オスピタレロは総じて感じが悪く、かんしゃくを起してどなりちらしたり、宿泊しないとスタンプも押せない、など、どうも印象が悪い。 まだ旅を始めたばかりで、訪ねたアルベルゲもたった5軒だから即断はできない。それにしても、あんまりじゃないか。疲れているから、よけい頭にくる。 なお、あとでわかったことだが、アルベルゲの先着順については、わたしがアホだった。 どういうことかというと、先着順を採用しているのは公営のアルベルゲ。一方、私営のアルベルゲは予約をとったり食事を出したり、サービスにこれつとめて客を集める。 その違いがわからず、アルベルゲはすべて先着順と思いこんでしまったのが、わたしのアホなところだ。よく読めば、ガイドブックにもそう書いてあった。 ひょっとしたら、スタンプを断られたのも何かの理由があるのかも。言葉が通じないのでわたしが理解できなかっただけかもしれない……。 いつになく弱気になりながら、先ほど歩いてきたマヨール通りを引き返す。 紹介されたホテルは通りに面していた。一泊45ユーロ、朝食を食べるなら+5ユーロ。Wi-Fiが使えるというので50ユーロで決定。
チェックインし、シャワー、そして洗濯。干すのは洗面室。だがスペースが足りなくて、ロッカーにも干してしまった。 最初のころはロッカーには干せなかった。というのも、洗濯機がないので、手で洗って手で絞る。すると、吊るしているうちに洗濯物からしずくがたれてくる。どんなにかたく絞っても、時間がたつとポタポタ落ちてくるので、濡れてもいい洗面室以外は干せないのだ。 が、そのうちにいいことを思いついた。洗濯物をバスタオルで包み、足でドシドシ踏む。こうやると、水分がほとんどなくなる。干してもしずくはたれないし、一晩で乾く。 以来、バスタオルで体をふいたことはない。バスタオルは洗濯物の水分取り専用。 ただ、こうやっても靴下だけは例外で、よほど空気が乾燥していない限り、一晩では乾かなかった。わたしは登山用の厚手の靴下ではなく、ワークマンで買った丈夫な作業用靴下を使ったが、ほとんどダメ。生乾きのやつをリュックの背に安全ピンでとめ、干しながら歩いた。 チェックイン後のルーチンワークが終わり、疲れてベッドに横になったらついウトウト。はっと目覚めて時計を見るともう7時前だった。ちょっとすっきりし、さて、夕食でも食べにいこうか。
夕食も食べた。まだ明るいし、町をぶらぶらしてから帰ろう。 ホテルに3日も泊まってしまったから、明日からしばらくはアルベルゲ泊にするつもりだ。 ひとりっきりの夜も気楽でいいのだが、3日も続くと人恋しい気分になる。人間はやはり群れていないとダメな部分があるのだろうな。
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◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ |