なつかしい都会のにおい
【25日目◆12年10月3日(水)◆晴れ◆Mansilla de las Mulas➔Leon◆20km/累計468.8km】
6時58分、準備が整った。出発する。
いつもどおり、外はまだ暗い。オスタルからすぐの橋を渡ると、マンシージャ・デ・ラス・ムラスの町は終わり、巡礼路に戻る。
▼町はずれの橋を渡る。この時間だと人通りはなく、車もほとんど走っていない。
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このあたりの巡礼路は国道N-601号の歩道なので、明るくなるにつれ、歩いているそばを車がビュンビュン行きかう。ちょっとこわい。だが、2時間も歩くと、道はいつもの砂利道。
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▼空にはまだ白い月が浮かんでいる。今は9時39分。
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日が昇り、背中を照らす。長い影が道路に落ちる。
その影がだんだん短くなり、後ろに伸びだすころにはレオンに着くはずだ。
レオンまで20kmだから、たいしたことはない。今日は余裕の歩きだ。
10時2分、高速道路を横断する。立派な歩道橋がかかっていた。
この歩道橋はたぶん巡礼者しか通らないと思うが、きちんと整備されているのには感心した。
続けてもう一回、高速道路を横断。
このあたりまで来ると、遠くに街並みが広がっているのが見える。これまでの何もない景色とは大違いだ。
大都会レオンの近郊まで来たということだね。
▼高速道路にかけられた歩道橋。自転車の巡礼者も通れるようになっている。
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プエンテ・デ・カストロの町を抜け、トリオ川を渡るともうレオンの街だ。10時58分には着いてしまった。ということは出発して4時間、時速5kmということになる。平坦な道なら時速6kmぐらいまではいけるはずだから、歩きとしてはのんびりペースだ。
▼レオンに到着した。これまで通過してきた村や町と違い、ビルが林立する、まさに大都会だ。
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レオンの街の入り口で、昨日知りあったおじさんに出会った。手をあげて「コンニチワ」と声をかけてくる。気さくな人だ。
だが、悲しいかな会話が続かない。彼は、コンニチワのほかにはサヨウナラしか知らないので、それを発して先に行ってしまった。後からのんびり歩いていくと、ん? 彼は黄色い矢印を無視してまっすぐ行く。わたしは矢印どおり右折。
矢印に従って街の中に入り、まずは中心部(セントロ)にある大聖堂(カテドラル)をめざす。
数日前にネットで予約したホテルが、「目の前にカテドラルのある好立地」と宣伝していたからだ。カテドラルまで行けば、ホテルはすぐに見つかるだろう。
歩くほどに、レオンは大都会だな、と思う。人口18万の現代都市。通りの両側に建ち並ぶビル群を見ながら、なぜかホッとする。
意外だった。日本にいるときは都会の喧騒が大嫌いだったのに、今日はそれがなつかしくさえあり、心地よさを感じているのだから。
▼カテドラルに行く通り。車は通行止めのようで、観光客がゾロゾロ歩いている。ここで日本人に遭遇!
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もうすぐカテドラルだな。
そう思って歩いているとき、前からきた東洋系の女性に声をかけられた。
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▼レオンの大聖堂。天にそびえる尖塔はやはり威厳がある。
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日本語? まさかこんなところで! びっくり仰天!
この旅で2人目の日本人だと思っていると、ソフトクリームをなめながらご主人がやってきた。
2人は、サンティアゴの巡礼路を何回かに分けて歩いているそうだ。今回はひとまずレオンで帰国するので、今日は観光日だと言っていた。
こんな偶然もあるんだなあ。
2人に別れを告げて歩きながら、こういう場所で日本人に出会う確率はどれぐらいあるのだろうか、などと考えてみるが、見当もつかない。
ま、いいか。とにかく今日はラッキー!
そこから数分歩いたらカテドラルだった。広場では市が開かれており、人でごったがえしていた。
▼カテドラルのあるレグラ広場の市には、観光客や地元の人など大勢の買い物客が訪れていた。
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▼日本では見られない珍しいものを発見。人間宝くじ売り機とでもいうべきか。胸に宝くじの束をぶら下げて売っているおじさんがいた。
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カテドラルを見たり市をのぞいたりしながら、広場に面した建物も端から見ていく。予約したホテルは……。
だが、それらしき看板は見当たらない。名前を記したメモを見せながら聞いて歩くが、だれも知らない。カテドラルが目の前だとPRしてたのに……。
カテドラルのまわりを、あっちウロウロ、こっちウロウロと歩きまわり、ようやくさがしあてた。たしかにカテドラルは目の前だが、裏側というか裏通りというか、よくいえば閑静、悪くいえばうら寂しいところに件のホテルはあった。
▼2泊したレオンのホテル。表のにぎわいとはうってかわった静かな裏通りにあった。
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ホテルの1階はバル&レストランになっていたので、昼食を食べてからチェックイン。フロントでWi-Fiのパスワードを聞くと、カードキーをはさんだ紙の余白に「1234567890」と書いて渡された。思わず笑ってしまう。
▼ツインのベッドで部屋もそこそこ広い。これで2泊・朝食付き121ユーロはお得かな。
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レオンの街の散策に出かけたのは3時40分。明日もあるから、今日はホテルの近くにしておいて、カテドラルの周辺をぶらつくか。
▼噴水のある広場。花壇もきれいでいうことなし。
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▼このオブジェにはどんな意味があるのか、しばらく考えてみたがわからなかった。
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▼かの有名なガウディ設計のボティーネス邸。今は銀行として使われているそうだ。
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▼ボティーネス邸の前に置かれたベンチに座る人。だれかと思ったらガウディとのことで、びっくり。
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▼カテドラルに戻ってきたら、尖塔が夕日を受けて輝いていた。左の塔が工事中なのが惜しい。
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▼さて、夕食はこのバルにしようか。それともホテルのレストランがいいか。
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バルではお茶を飲んだだけで、夕食はホテルのレストランにした。4品頼んで14.2ユーロ。スペシャルサラダがおいしかった。それ以外は、とりたてていうこともない料理だった。
夜は冷えこむ。たしかレオンの標高は800mを超えていたはずだ。暖房をいれて、テレビでも見ようか。もちろんスペイン語だが、おもしろいことに、アクションものは意外に楽しめる。ストーリーもなんとなくわかる。結局、アクションに言葉はいらないってことなんだな。
さて、明日はお休み。何をして過ごそうか。
ベッドにもぐりこんで、予定を考えているとき、ふと思いだした。そういえば、レオンの街で予約したホテルをさがし歩いていたとき、顔見知りに出会ったな。
あれは、初日のテント泊の日だった。お茶を飲んでいるとき、あっ、日本人だ! と確信した若い東洋人女性が、汗にまみれてアルベルゲに到着した。だけどじつは韓国の人でガッカリ。その彼女とほぼ1か月ぶりにこの街で出会ったのだ。
彼女も泊まるところをさがしていると言う。情報を交換して別れたが、今日は偶然の出会いが重なる日だった。この広いレオンの街で、日本人や知りあいとすれ違うなんて、考えもしなかった。ほんのちょっとでも時間がずれていれば、会うことはない。
いったい何が、そんなことをさせているのだろうか?
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