▲小さな町にはスーパーがないところも多い。見つけたら買っておくほうが無難かも。あとでと思うと後悔する。
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予定変更は巡礼につきもの
【5日目12年9月13日(木)Roncesvalles➔Zubiri21.5km/累計46.5km】

 今朝はゆっくり起床。下のベッドも向かいのベッドもきれいに片づいている。みんな朝早くに旅立っていったみたいだ。

 わたしはといえば、歩き3日目にして早くも挫折。今日は3km先のブルゲーテ泊まりにしようと、昨夜、決めたのだ。弱気も弱気、気力が萎えきってしまった。雨がいけなかったんだよ。

 のろのろと支度をし、1階に降りる。共用スペースの自動販売機で買ったパンを食べジュースを飲み、朝食終了。靴置き場に行き、靴をはいていると、昨日のテント泊で隣同士だった、アメリカから来ている黒人のおばさんにばったり出会った。

 あら、まあ、あんたも泊まってたの? と言っているようなので、やあ、奇遇だねー、と言おうとしたが、英語が浮かばない。まあ、いいか。笑ってごまかす。
 
 グッバイ!
 おばさんは、連れの白人のやや若いおばさんと出立。おばさんといってもわたしの2歳下だというから、れっきとした還暦おばあには違いない。でも、若いなあ。

 なんて感心しているわけにはいかない。8時にはクローズすると管理人(オスピタレロ)がふれてまわっている。少しぐらい遅れてもいいじゃないか。そうは思うが、なにせこのアルベルゲは厳格だ。

 今日もまた重装備で、8時3分、出発。雨は降り続いている。到着時とは逆の裏口から坂道を下っていく。8時にクローズの規則どおり、正門はすでに閉ざされているので、そこからは出られないのだ。

▼アルベルゲの裏口を出たところ。今日も雨の旅立ちだ。

 さて、前を歩く集団はどっちに行くんだろうか。巡礼路に入るまでは後をついていく。これが町中で迷わないコツだ。

 案ずるほどのことはなかった。アルベルゲから町に出るとすぐに巡礼路があるらしく、みんなそっちのほうに行く。その後をついていくと、ブルゲーテの町を通る巡礼路の案内板があった。

▼雨にぬれるロンセスバージェスの町。左端に巡礼者が2、3人見えるが、そこが巡礼路だった。

▼巡礼路に掲げられた案内図。スビリまで20.7km。わたしは3kmしか歩かないつもりだが、これが平均的な一日の行程なんだろうな。高低差はそれほどなく、わりと平坦な道のようだ。

 雨の道を歩くうちに、なんとなくスビリまで行くべいか、と思いはじめる。体の調子も少し戻ってきて、なかなかいい塩梅だ。

 そんなことを考えているうちに、ブルゲーテの町に着いた。ゆっくり歩いたので1時間かかっている。町に入ってすぐにスーパーがあり、リンゴ2個、バナナ2本、パン1袋を買う。3ユーロだった。

 雨で人通りのとだえた町を歩いていたら、「ヘミングウェイが泊まっていた宿」という案内板が出ていた。通りに面した小さなホテルだ。

▼ヘミングウェイの定宿だった「オスタル・ブルゲーテ」。ガイドブックに載っていたこの宿に泊まってみたいという思いもあり、今日は3kmでやめにしよう決めたのだ。そして、ヘミングウェイがマス釣りに興じたという川辺を散策でもすれば、気力も回復するだろう――なんて思っていた。でも、この雨だ。部屋にこもっているしかなさそうだし、もう少し先まで行ってみようか。

 写真を撮りつつ、しばし黙考。あ、2階の窓から人が顔を出している。泊り客かな。所在なげに外を見ている。雨だし、することもなく、暇をもてあましていそう。

 雨降りだとやることもないよなあ……。先へ行こうか。できればスビリまで。
 3kmの予定が20km。それもいいか。歩きだしたら調子もそこそこ戻ってきたし、なんとかなるだろう。

 機会があればまた――。
 写真を撮っただけで「オスタル・ブルゲーテ」を通りすぎる。
 雨は降っている。歩いても歩いても、降っている。
 靴に水が入ってきたみたいだ。靴は防水仕様だから、靴からではなく、ズボンを伝わった水が、ローカットの靴の脇から中へしみこんでいるのだろう。レインズボンは裾がボロボロになって、靴を覆う役には立たない。

▼10分足らずでブルゲーテの町をぬけると、旧道に入る。小川を越え、林を通り、牧草地を縫うように歩いていく。雨はやまない。標高が高いせいか肌寒lく、少しずつ濡れていく体が冷える。

 ほこりや小石対策として、トレイルランニング用の超軽量スパッツ(SETA STRAPLESS RUNNNING GAITER) を買ってきたが、防水仕様じゃないので雨には役立たない。
 雨対策としては、ちゃんとしたレインズボン+防水スパッツが必要だった。旅の最初から濡れネズミになるなんて、思いもしなかったよ。

 靴選びも失敗したかな。ハイカットの靴だと少しはましだったかも。
 とはいえ、歩きだけに関していえば、この靴で大満足。サンティアゴ巡礼用に買った靴だが、巡礼前に高野山から熊野古道にかけて200kmを試し歩きした。その結果、足のマメに悩まされることはないだろうと確信した。
 歩きはじめの4、5日、ピリッと感じたら即テープ貼り。これだけで、小さなマメのうちに終わらせることができる。

 今日は歩きはじめて3日目だが、まだマメはできていない。ピリッと感じる小指にテープを貼っているだけ。しかし、雨には用心すること。靴下が濡れてしまうと、すぐにマメができるから。

 おっと、これは何だ?
 巡礼路の脇に石碑が建ち、花が飾られている。墓標のようにも見えるが。

▼石碑に刻まれた文字は読めない。巡礼の途中で亡くなった人をしのんで建てられたのだろうか。

 前を歩いていた巡礼者の姿も消え、いつの間にかひとりになってしまった。出発が遅かったのであとから来る人もいなそうだ。墓標? を見たせいでもないが、ちょっぴり不安になる。

▼雨音だけが聞こえる森の小道。ひとりで歩いているときは、ホタテ貝のマークと黄色い矢印を見つけると、心の底からホッとする。このころは、レンズに雨がつくほど降っていた。おかげで写真がボケてしまった。

 森の小道はだんだん上りになり、メスキリッツ峠(標高925m)へ至る。峠を下り、村を2つ過ぎるとまた上り。エロー峠(標高815m)だ。

▼エロー峠。雨はようやくあがった。時計は1時26分。ここからならあと1時間もあればスビリに着くだろう。移動販売車でカフェオレでも買って軽い昼食にしよう。ついでに雨具も脱いで、と。

ペンシオンに泊まる

 2時26分、スビリ到着。案内板の地図をカメラに収め、見ながら歩いていくとアルベルゲがあった。町にはアルベルゲの看板を掲げた建物がいくつもあり、ホテルの看板も目につく。泊まるところには不自由しなそうだ。

 アルベルゲ泊が2日続いたので、今日はホテルにしよう。
 そう決めて受付に行き、クレデンシャルを出してスタンプをもらう。そして、受付のお姉さんにホテルを紹介してくれと言ったのだが、なかなか伝わらず、彼女は早口でまくしたてるだけだ。

 どうやら彼女は、わたしがアルベルゲに泊まると思っていたみたいだ。スタンプだけをもらいにきたのなら、最初にその旨を伝えてクレデンシャルを出せば問題なかった。なのに、だまってクレデンシャルを出したので、彼女は宿泊手続きをしてしまい、そのあとでホテルを紹介してくれ、なんて言うので、かんしゃくを起こしてしまったようだ。

 スタンプがほしかったのなら、もう押したんだからさっさと行きなさいよ――と言っているに違いない。ケンモホロロとはこのこと。すごすごと引き下がる。ああ、情けなや。

 しかたなく表に出てきょろきょろしていると、おばさんが近づいてきて、両手を頬に当てるという万国共通のしぐさをする。
 「オー、イエス、シー、シー!」 思わず叫ぶ。シーはスペイン語のイエスだ。覚えたて。

 絶妙のタイミングで救いの女神が現れた。おばさんはスペイン語しか話さず、わたしは日本語オンリー。それでも、こちらは泊まりたい、向こうは泊まってもらいたい。共通の思いがあるので、会話なき会話は即成立。

 「ペンシオン」と言いながら、メモに「30」と書いたものを見せられる。一泊30ユーロ=3000円のペンションだ。高いか安いかわからないが、3000円ならOKだよ。話はすぐにまとまる。

 案内されたのは歩いて1、2分のところにあるマンション。その4階のフロアが4部屋のペンシ
▼このマンションの4階がペンションだった。バス・トイレは共用で、小さな共用キッチンもあった。
ョンになっていた。日本のペンションというイメージではなく、客室と共用のバス・トイレがあるプチホテルのような感じだ。

 おばさんに鍵を渡される。部屋のほかにマンションの玄関キーも。
 推察するに、このマンションのワンフロアを購入し、間取りを4部屋のペンションタイプに改装、経営しているというところだろう。

 おばさんがオーナーなのかな。このマンションには住んでいなく、家は別のところにあるようだ。

 泊まるところを予約せず、いきあたりばったりでやっていくのは不安だったが、なんとかなるもんだな。

 日本で予約したのは、歩き初日のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーのホテルだけ。アルベルゲは予約不可の先着順とわかっていたので、出たとこ勝負だと覚悟を決めてやってきた。
 なのに、最初のアルベルゲで、予約なしで断られたのは予想外で大ショックだったけれど。

 それはともかく、野宿だけはかんべんしてもらいたいが、初日からテント泊というきつい洗礼を受けている身としては、これなら極楽だね。

▼ツインの客室はゆったりしていていい雰囲気だった。これで3000円なら安いもんだ。だれに気兼ねすることもなく、ゆっくり眠れるのがいい。

 洗濯も終わり、ひと段落したので町の探索に出かけた。
 スビリは小さな町で見るところもあまりなく、小一時間ほどで引きあげる。

 マンションに戻り、玄関の鍵を開ける。事件はそのとき起きた。鍵が開かないのだ。どういうこと?
 玄関の鍵、部屋の鍵と2個あるので、間違えたのか? いや、いや、両方とも開かない。何度試してもダメだ。

 オートロックの小さなマンションなので、管理人はいないし、どうしたらいいんだよ。こうなるんだったら、おばさんの家を聞いておけばよかった。たぶん、近所に住んでいるはずだから。

 だれか住人が帰ってくるまで待つしかないか。そう思ってあきらめかけたとき、ひょいと回した鍵に反応が! カチャッと小さな音がして、鍵が開いた!

 よかった……。
 スペイン語で事情を説明し、一緒に中に入れてくれなんて、とてもじゃないが言えやしない。が、それも一件落着だ。

 部屋に戻ると疲れがどっと出て、6時過ぎにベッドにもぐりこんだら8時まで寝てしまった。起きてみると外はまだ明るい。もう開いているレストランもありそうだが、外に出るのはこわくて、パンとリンゴ1個で夕食をすませた。今度外に出たら、確実に閉めだされる。

▼外を見ると小さな牧場があった。羊が数匹、のんびりと草を食んでいる。夕方の6時なのに日は高い。

 昨日、今日と、まともな食事はまだ一度も食べてないなあ。
 ……あきらめて、もう寝よう。


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       ◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ