お漏らし事件
【39日目◆12年10月17日(水)◆雨◆Melide➔Arzua◆13.6km/累計741.4km】
起床7時30分。朝食は部屋で簡単にすます。今日はたったの13.6kmだから、朝ものんびりできる。
9時5分、出発準備完了。これから部屋を出る。
オスタルの隣りのバルはすでに開いており、部屋の鍵をおばちゃんに返して、アディオス!
雨は小降り。天気予報では、今日・明日は雨、あさって金曜から晴れになり、サンティアゴ到着の土曜日以降は晴れが続く。
いずれにせよ、今日もまた雨か。ま、レインズボンが返ってきたから、それもよし、だな。
|
残り50km |
|
|
宿を出てほんの20分で最初のモホンを見つけた。
いよいよ残すところ50kmになった。がんばれば明日の夜にでも到着できる距離だ。
しかし、そこをあえてゆっくり歩く。巡礼旅の最後の歩きになるのだから、これからの3日間は歩きを堪能しようぜ。
モホン通過が9時25分。そして10時15分、雨が本格的に降りはじめた。道路は水びたしで、大きな水たまりができているところもある。
防水仕様の靴とはいえ、わざわざ水たまりに入ることはない。みんなよけて歩いている。
10時25分、最初の休憩。今日ばかりはバルの店内が満員だ。ポンチョを脱ぐと、雨で濡れた体から湯気がたちのぼる。
▼巡礼路に大きな水たまりができていた。みんなよけて通るので、そちらが道のようになっている。
|
▼雨の日のバルはイス席が満員。濡れた体からたちのぼる湯気で店内がくもっている。
|
バルでの休憩終わり。スタンプは押した。出発だ。やっぱり休みをとるといい。体が軽くなり、歩きも軽快になる。
道は単調だ。日本の田舎道といってもとおるような、ありふれたアスファルト道路を淡々と歩く。雨は変わらずに降り続いている。
▼こうした道が続いていると迷う心配はない。それにしても地味な道だなあ。
|
|
残り40km |
|
|
お昼ちょい前、11時51分、今日2つ目のモホン通過。
ということは、目的地のアルスーアはすぐそこ、ということだ。スケジュール表の残り距離欄では、アルスーアは39.1kmになっているから。
ただ、残り距離を示すモホンを見るようになってわかったのだが、表との数字は微妙に違っている。現に今も、あと900メートルでアルスーアだというのに、まだ町は見えてこない。
ま、細かいことは気にしない。モホンの距離を信じて進めば、ちゃんとサンティアゴに到達する。30、20、10、そして0……。ん、0のモホンなんてあるんだろうか?
40kmのモホンを通り過ぎたところで小さな村に入る。どこかで休憩したいなあ。トイレにもいきたいし。
▼小さな集落。トイレにいきたいが休むところなんかなさそうだ。
|
いつもなら適当な木陰がマイトイレなのだが、雨が降っていると「濡れない木陰」という条件がつくので、ちょっと面倒だ。それでバルでもあれば、と思ったのだが、そんなものなど影も形もないまま、集落を通り抜けてしまった。
そうなると不思議なもので、病気が出てくる。切迫尿意というやつだ。なんだろうね、これは。トイレがあるかもしれないという期待感が、アッという間に尿意になり、普通の人ならトイレがないとわかったらガマンできるのに、そのガマンがきかなくなる。病気だからね。
えーい、ダメだ。どこでもいいや。あたりを見まわす。木陰がない。が、人目もない。レインズボンを下げ、ふっと息を抜いたとたん、アッ!……間に合わなかった、漏れている!
この旅初めての出来事。薬の効きが悪くなってはいたが、こうなってしまうと、もはや薬に頼るわけにはいかない。あとちょっと、日本に帰るまでは早目、早目のトイレタイム。帰ったら、もっと有効な治療法をさがそう。あ~あ、歳をとるのはツライなあ。
|
▼39.5Kmのモホン。下に地名が刻んである。 |
さて、どうしよう。着替えなんかできっこないし、レインズボンをはいたままなのも、かえって気持ちが悪い。いっそレインズボンは脱いでしまおうか。
そうだ、昨日のように雨でびっしょり濡れたほうがいい。濡れてしまえば同じことだ。
すべて水に流してしまおうぜ。
それがいい。そうしよう。
一件落着で歩きだしたら、集落のはずれに「RIVADISO」の名を刻んだ39.5kmのモホンがあった。
ここは、アルスーアのひとつ手前の村、リバディソ・ダ・バイショ村だろう。
それにしても、お漏らし事件のせいで、500m進むのにずいぶん時間がかかったものだ。
そういえば、距離の下に地名を刻んだものと刻んでないもの、2種類のモホンがあるなあ。39.5kmのモホンには地名があるが、さっき通った40kmのモホンにはなかった。どういうことなんだろう。まさか地名を入れるのを忘れたとか。いや、それはないだろう。
そんなことを考えているうちに、アルスーアに着いてしまった。
▼アルスーアの町。12時40分着。お漏らし事件があった割には早い到着だった。
|
町に着いたときに気づいたのだが、右の靴に水が侵入。左は湿り気と濡れとの中間。お漏らし事件といい、これといい、なんだか今日は水が鬼門だな。
宿は今日もペンシオン。なるべく疲れがたまらないようにしないと、帯状疱疹モドキがひどくなりそうな気がする。アルベルゲは、ほかに泊まるところがない場合のみ。
▼25ユーロのペンシオン。窓の外にベランダがあり雨具が干せたのは助かった。
|
夕方になって少し晴れ間が出た。といって、それほど期待できない。遠くの空は相変わらず厚い雲だし、もう一日雨だと思っていたほうがいい。
夕食は外に出る元気がなく、部屋で簡単にすます。
濡れた靴を乾かすため、新聞紙をもらいにいったら、ヒーターをつければいいと教えられた。まさか使えるとは思ってもいなかったので、これは嬉しかった。靴も洗濯物もこれで安心。使えないと決めつけないで、聞いたほうがいいな。これからはそうしよう。
明日の支度を終え、部屋も暖かくなった。寝るとしよう。
電気を消してしばらくしたころ、突然、男と女の怒鳴り声。壁に何かがぶつかる音。隣りの部屋だ。わたしがチェックインしたあとも、巡礼者が次々に来ていたから、隣の部屋もそうだと思う。だけど、この怒鳴り声は巡礼者らしからぬ殺気に満ちているなあ。大丈夫か?
何か、事件だと困るな。ちょっとドキドキしたが、そのうちにおさまった。長く旅を続けているといろんなことがあるもんだ。
|