▲サン・ロケ峠の巡礼者像。帽子が風に飛ばされないように押さえている。確かに峠道は風が強かった。
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峠を2つも越えて歩く
【34日目12年10月12日(金)曇りのち晴れVega de Valcarce➔Fonfria26.6km/累計636.4km

 今日は巡礼路最後の難関、オ・セブレイロ峠を越える。標高1820m。今いるベガ・デ・バルカルセが標高650メートルぐらいだから、約1200mの高度差。けっこうきつい上りになる。そのため、行程は短め目の17.1kmにした。目的地はオ・セブレイロ村だ。

 起床6時。7時9分、部屋を出る。廊下のスイッチの位置がわからず、暗闇の中を手さぐりで出口に向かう。外に出ると空には鋭い三日月がかかり、星が2つ、3つ。今日は晴れるかもしれないな。

▼三日月なのにボケてしまった。オートフォーカスだと油断もすきもならない。この雲なら晴れるかも。

▼歩きはじめて1時間ちょい、夜が明けはじめ、道は山に分け入っていく。上りがきつくなる。

▼石畳の山道。日本でもこれと同じような道を歩いたことがあるぞ。
 さすがにきつい。それに、標高が高いせいか寒い。歩いてもそれほどあたたまらない。

 ピッチを落とし、重心を下げてゆったりと歩く。
 きついけれど、これぐらいの山道は四国や熊野でイヤというほど歩いてきた。へいき、へいき、と暗示をかけながら歩を進める。

 9時24分、視界が開け、尾根筋に出る。
 峠の頂上ということはないだろう。まだ2時間半しか歩いていない。

 見晴らしがよくなると、気分もよくなる。尾根だから平坦なところもあり、歩くのが楽。少し余裕が出てきた。
 これで晴れていたら言うことなしだが、それはぜいたくというもの。降らないだけましと思わなければ。

▼視界が開け、尾根筋に出た。きつい上りはひと段落。このまま頂上、そして下りになってくれれば。

▼黄色い花をつけた草の茎に、水玉が連なっている。ついさっきまで雨が降っていたのかもしれない。

▼尾根道を歩いていると遠くに日差しが見えた。雲が切れてきた証拠。これはいい傾向だ。

 尾根道を歩くこと40分、大きな石碑が路肩に建っていた。オ・セブレイロ峠の頂上のようだ。10時7分着。あとは下るだけだと思うとホッとする。小休止。

▼尾根道に建つ石碑。出発して3時間、峠の上り道はきついところもあったが、熊野に比べれば楽だった。
▼落書きだらけの石碑をよく見たら、州境の標識だった。ここからガリシア州になるということだ。

 石碑は峠の頂上というわけではなかった。道はまだ上りが続くようだ。

 少し歩いたところで、道路わきの草むらにまた石碑がある。彫りこまれたスペイン語はよくわからないが、ホタテ貝のマークとその下に「K.151.5」という数字がある。
 ひょっとしたらこれは、サンティアゴまであと151.5kmという標識じゃないのかな。

▼石の標識。ホタテ貝の下の数字は、サンティアゴまであと151.5kmという意味だと解釈した。
 












 
 スケジュール表で距離を確認すると、オ・セブレイロで残り155.9kmとなっている。
 まだオ・セブレイロの村には着いていないので数字は合わないが、ま、4kmたらずだし、誤差の範囲内ということで。

 こんな数字を見ると、いやでも終わりを意識せざるをえない。
 旅もいよいよ終盤。ゴールという文字がちらつきだしたよ。

 そこから先はすばらしい眺望で、景色を楽しみながら歩く。
 天気は薄曇りといったところか。晴天じゃないのが残念だが、曇り空の風景もまたいいものだ。晴れでも曇りでも、たとえ雨が降っていてさえ、元気に歩けるのがいちばん。今日はまだ元気に歩いている。気分もいい。

▼峠道からの眺め。

▼湧き上がる雲のアップ。竜巻のような形がおもしろい。

 10時29分、オ・セブレイロ村に到着。峠道はそれなりに厳しかったが、難関というほどでもなかった。余力あり、だな。

 石畳を踏んで歩いていくと、ホテルやバル、おみやげ物を売っている店などが目に入る。今日はこの村までだが、いくらなんでも泊まるには早すぎる。ガイドブックには宿が6軒ほどあると書かれているし、もう少し先まで歩いてみるか。

▼オ・セブレイロ村に入って最初に見つけたホテル(正面)。左の建物にも「Habitaciones」の看板とベッドの絵があるので泊まれるようだ。

▼デンデン太鼓や笛、風車、それに孫の手まである。どう見ても東洋系のおみやげ物屋だ。

 3、4分ほど歩くと家並がとぎれ、眺望が開ける。霧がかかってきたようだ。眼下の風景が白くかすむ。あれは、霧というより雲かな。

▼標高も高いことだし、雲が湧き上がっているのかもしれない。

 10時41分、今日初めての下り。ということは峠の頂上を越えたのだろうが、標識なんぞは見かけなかったぞ。
 ま、いいか。道は楽な下りだし、もう少し先まで行って宿を見つけよう。

 のんびり30分ほど歩くと、霧の中に建物が見えてきた。オ・セブレイロ村の中心だな。

▼下りの山道から、舗装された平坦な道に出た。霧がたちこめ、家がかすんで見える。

▼村の中を数分歩くとひなびた教会があった。塀のこけむした様子が、歴史の年輪を感じさせる。

 これが、ガイドブックに出ているサンタ・マリア教会のようだ。ここではクレデンシャルにスタンプを押してくれる。さっそく中に入ってみた。
 ところが、中には人のいる気配がまったくない。無人の教会のようで、なんだか荒れた感じもする。首をひねりつつ、スタンプはあきらめた。

 ガイドブックの表記と現地の様子が違うことはままある。本はリアルタイムの更新ができないから、しかたのないこと。先に行くとしよう。

 そう考えて歩きはじめる。やがて村の道は県道と合流し、家並もなくなる。どうやらオ・セブレイロ村を通り抜けたようだ。
 泊まるところが見つからなかったな。どうしよう。時計を見るとまだ11時半。次のリニャレス村で十分だ。時間はたっぷりある。

 県道沿いの道はやや上り。やがて前方に大きな立像が見えてきた。あれっ、ガイドブックに出ていた巡礼者の像じゃないの? 近づくとまさに帽子を風に飛ばされないように押さえて歩く巡礼者の像だ。

▼帽子を押さえて歩く巡礼者像。自転車巡礼の一団が写真を撮っていた。

 この像があるということは、ここはサン・ロケ峠で、オ・セブレイロ村はもちろん隣のリニャレス村も通り過ぎたことになる。アチャア~いつの間に?

 訳がわからないとはこのこと。注意力が散漫になっている。まさか高山病? 先ほど越えてきたオ・セブレイロ峠が1320m、そしてこのサン・ロケ峠は1264m。けっこうな高さのところを歩いているのだから。

 いや、いや、それはない。疲れてはいるが、体に異常は感じない。頭痛も吐き気もなし。そんな言い訳を考えるのはやめて、もっと緊張感を保とうぜ。
 幸いこのあたりは2、3kmおきに村がある。歩いていれば宿も見つかるだろう。

 巡礼者の像で小休止し、11時54分、歩き再開。歩き疲れた1時過ぎ、アルト・ド・ポイオ村着。バルがあったので昼食休憩。お昼はナポリタンを頼んだ。3ユーロ。安い。

▼バルはアルベルゲの併設。ここに泊まろうと思ったが、休んでいるうちに元気回復。先に行くことにした。

 昼食を終え、バルをあとにして1kmぐらい歩いただろうか、ふと、昼メシ代は?……という疑問が脳裏をよぎる。
 アアッ! ワスレタ!
 まただ。あきれはてて言葉もない。

 今日はきっちりケリをつけろ。痛い目にあわないとダメみたいだから。
 バルに引き返し、女の子にお金を払う。払うのを忘れて戻ってきた――なんてスペイン語でどう言えばいいかわからなので、ただナポリタンとだけ言って3ユーロを渡す。

 それで一件落着。笑顔に送られてバルを出る。これからは、伝票を持ってくるところ以外、前払いを徹底すること。肝に銘じておけよ。

 そんなこんなでやや気落ちしながらも、3.3km歩いてフォンフリア村着。私営のアルベルゲを見つけてベッドを確保。一泊7ユーロ+夕食10ユーロを払い、ようやく峠越えの歩きが終わった。
 17.1kmの予定が、終わってみれば26.6km。疲れたけど、達成感十分。よくやった。

▼フォンフリア村のアルベルゲ。道路をへだてた草地に洗濯物の干場がある。

▼アルベルゲ向かいの斜面は牧場になっている。牛がのんびり草を食んでいた。

▼牧場の隅に咲いていた花。こういうとき、花の名前を知らないのがくやしい。

 小さな村で、アルベルゲのまわりを散歩しても、めぼしいものは何もない。ただ、天気がよくなってふりそそぐ日差しが気持ちいい。それだけで今日の疲れがとれる気がする。

▼夕食はアルベルゲの食堂で。老いも若きも盛り上がって、とてもにぎやかな夕食だった。

▼ビーフと豆の煮込みがメインディッシュ。あっさり味でまあまあかな。

 フォークを持っていて、少し気になるのが人差し指に目立ちはじめた小さな水疱だ。2日前に初めて気づいた発疹が、大きくなってきた気がする。痛みもかゆみもないけど、ちょっと気がかり。はやいとこ、治ってくれよな。


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      ◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ