レインズボンが戻ってきた!
【38日目◆12年10月16日(火)◆雨◆Palas de Rei➔Melide◆15.1km/累計727.8km】
タイマーが6時に鳴った。8時に起きるつもりだったのに。
今日からの4日間は歩き短縮期間。普通に歩いてしまうと、サンティアゴに早く着きすぎるのだ。それで朝もゆっくりのつもりだったのに、いつもの時間にタイマーを合わせたままだった。
雨が降っているようで、肌寒い。もう少し寝ていよう。
8時過ぎに起きだし、出発準備。ここで、レインズボンがないことに気づく。アレッ、どこかに忘れた?
つらつら考えるに、昨日泊まったビラチャのアルベルゲだ。起こしちゃ悪いと思い、荷物を抱えてそっと廊下に出たとき、ベッドの下に突っ込んでおいたレインズボンを忘れた。普通は支度が終わったあと、ヘッドランプをつけてベッドまわりを確認するのだが、あのときはそれをしなかったな。気配りが裏目に出たぜ。
この村にも巡礼用品店はあるが、店が開くのは10時か11時ごろ。それまで待つ? それとも天気がよくなるほうに賭けて、出発する?
えい、面倒くさい。天気がよくなるほうに賭け、出発しちゃえ。
9時56分出発。用品店の前を通ってみたが、案の定、店は閉まっていた。行こう、行こう。天気はよくなるさ。
▼村を出てすぐに国道からそれ、右側の細い巡礼路に入る。今のところ雨はやんでいる。
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昨夜は夜中の1時40分ごろにトイレに行き、それから眠れずに3時ごろまでパソコンに向かっていた。そのせいか、頭がぼんやりする。
あっ、オスタルでスタンプを押してもらうのを忘れた。着いたときにもらうべきだった。あとでと思うとこのざまだ。
▼10時44分、最初の村に通りかかるころ雨が降りだした。賭けに負けた。
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▼これがガイドブックに載っていたオレオか。高床式の保管庫。フム、フムとうなづきながら通り過ぎる。
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オレオから10分ほど歩いた山道で、2人の女の子が署名活動のようなことをしているのに出会った。肢体不自由者のためのなんたらかんたら、と言っているようだ。
ボランティアなのに雨の中をご苦労さん。詳しいことはわからないまま、差し出された一覧表に名前や国名を記入。終わると彼女たちは「マネー」と言う。えっ、なんのこと?
実は、何を書けばいいのかわからない記入欄があり、しかたなく前の人を真似て「206」と書いておいた。適当でいいさ、と思って書いたのだが、それは寄付する金額を書く欄だったのだ。206の6は「€」、つまり「20€寄付します」ということ。
ありゃあ、そういうことか。署名というより募金なんだ。あわてて「5€」に訂正、お金を渡した。見れば一覧表にはけっこうな金額が並んでいる。日本では実態のない募金活動なんぞというものもある。これはどうなんだ?
▼別れ際、写真を撮ろうとしたら笑って応じてくれた。ま、ボランティアの募金活動と思ってもいいか。
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カサノバ村に入ったところで60キロのモホンに遭遇。時計は11時16分なので、今日はこの1個だけだな。
▼モホンといっても仰々しく立てられているわけではない。よそ見なんかしているとアウト。集中、集中だ。
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残り60km |
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雨が激しさを増してきた。レインズボンがないので、脚は濡れるがままに歩くしかない。そのうち雨が、肌を伝う感触になるのだが、そうなる前にテント張りのバルがあった。
お昼休みにする。忘れないように、注文と同時にクレデンシャルを出し、スタンプを押す。この店はカウンターにスタンプが置いてあり、自分で押せるようになっていた。日付も自分で記入する。
これだと、車でスッと乗りつけ、スタンプをポンと押していったって、わかりゃしないな。ま、そんなことをする人もいないか。
休んでいる間に本格的な雨になった。いいさ、行こう。休んだのでリュックが軽く感じる分、雨もまた楽しの心境になろうというものだ。
▼カウンターで注文し、テントで食べる。座って休める分、疲れもとれる。
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12時26分、お昼休み終わり。出発。雨の中を歩きはじめる。目的地のメリデまでそんなにかからないだろう。
▼ホタテ貝を黄色く塗って壁に貼りつけ、矢印の形にしてある。よくわかりますよ、ありがとさん。
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▼これもオレオの一種なのかな。レボレイロ村で見かけた。
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▼プチ崖崩れ。巡礼路の整備は行き届いているので、雨で地盤がゆるみ崩れたばかりなのだろう。
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▼雨の中をジョギングする人。風のごとく走っていった。ピントを合わせる暇もない。
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脚がびしょ濡れになるころメリデ着。1時35分。
けっこう大きな町だ。ここでは、ガリシア地方名物のタコ料理が堪能できるとガイドブックに書いてあった。が、それはあとにして、まずは泊まるところ。早く着替えたい。
▼雨が降り続くメリデの町。目抜き通りなら泊まるところもたくさんあるだろう。
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▼ペンシオンの案内看板。
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通りを歩いていくと、さっそくペンシオンの看板発見。Wi-Fiが使える。即決定。
矢印の先にある路地を入ると、マンション風のペンシオンがあった。しかし、ドアにはカギがかかっている。
さて、と。看板の真ん前はバル。ということはそこが受付だな。バルに入って聞くと、やはりそうだった。
店のおばちゃんが鍵を持ってペンシオンの裏手に行く。しばらく待つと、内側からドアを開けてくれた。表から開ければ簡単なのに。
部屋の鍵をもらい、エレベーターで4階へ上がる。シングルベッドの部屋だった。内装はきれいで居心地はいい。最近できたペンシオンなのかもしれない。
▼狭いけど清潔そうでいい感じの部屋。30ユーロ。シャワーを浴び、着替えをすませ、しばし休憩。
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おっと、休んでもいられない。忘れないうちに部屋代を払っておこう。ついでにカフェオレでも飲むとするか。
ペンシオンの玄関に傘が置いてあったので、傘をさして隣りのバルへ行く。客は2、3人。ガランとしている。カウンター席でのんびりティータイム。
▼バルでは宝くじを売っていた。くじだけを買いにくるお客さんもいるようだ。
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店の外を見ると雨足はだいぶ弱くなっている。ひょっとしたら雨があがるかもしれない。夕食まで時間があるから、町に出てみる?
そうしよう。まだ4時を回ったところだ。町をひとまわりしてもお釣りがくるだろう。
部屋に戻って支度をしようとバルを出る。路地に入ったところで、後ろから声をかけられた。何気なく振り向くと、おととい、ビラチャ村のアルベルゲで一緒だった韓国の若い女性だ。名前はなんだったけな。
オラ! オラ! と再会を喜んでいると、彼女はリュックをおろして何やら引っ張りだし、ハイと手渡してくれる。アルベルゲに忘れてきたレインズボンだ。
びっくり仰天! レインズボンが戻ってきた。こんなことがあるんだろうか。
わたしの忘れ物に気づいた彼女が、どこかで会えるかもしれない、と持ち歩いていてくれたのだ。でも、それが現実になるなんて、彼女自身思っていなかっただろう。
ペンシオンの入り口まであと数メートルのところだから、通りを歩いてきた彼女が路地の前にさしかかるのがほんの10秒でもずれていたら、わたしはペンシオンに入ってしまい、会うことはなかっただろう!
偶然もきわまれり。これは奇跡といってもいいんじゃない?
わたしは大いに盛り上がっているのだが、彼女は役目を終えてホッとしたように、まだ先があるから、とにっこり笑ってバーイ。先を急いでいるようで、写真を撮る暇もない。
▼雨がやんでから撮った路地。右のビルの1階がバルで、路地奥に人がいるのがペンシオンの入り口。なんの変哲もない路地だが、わたしにとっては奇跡の路地ともいうべき記念の場所になった。
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▼雨があがったメリデのメインストリート。でも、この雲だといつ降りだしてもおかしくないな。
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夕食は名物のタコ料理。やわらかくてうまい。が、料金が高すぎ。15.7ユーロだと。
二品の巡礼者定食が10ユーロ前後だよ。地元の人も、こんなに高いものを食べているのかね。言っては悪いが、たかがタコなのに。
▼値段は皿の大きさ別になっている。この皿だと2人分ぐらいあるのかな。タコだけで満腹になった。
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本日も終了。寝る前に、発疹についてネットで調べる。いっこうにおさまる気配がないのだ。鏡で見える範囲では、ポツポツだった発疹が、線状につながってきた感じがする。
そんな症状で調べてみると、予想どおり、発疹は帯状疱疹の可能性大。疲れやストレスによる免疫力低下が原因で発症――という典型パターンのように思える。
しかし、痛みをともなうのが帯状疱疹の特徴なのに、それはまったく感じない。逆にかゆみは少しある。それに帯状疱疹は体の片側だけにできるとあるが、わたしの場合はそうでもない。左側が多いが、右にもいくらかできている。
疑いはあるが証拠不十分。よって、様子見というか自然に治るのを待つというか、医者にいくまでもないだろう。これが結論だ。
ただし、問題は目のまわりにも少しできてきたこと。自然治癒にまかせると危険という解説もあった。最悪、失明のおそれあり、とか。様子見もいいが、くれぐれも慎重に。ゴールまであとわずかのところで、つまづくわけにはいかないぜ。
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