馬と抜きつ抜かれつ
【29日目◆12年10月7日(日)◆曇りのち快晴◆Astorga➔Rabanal del Camino◆20.7km/累計538.4km】
7時16分。準備ばっちり。食事もした。ウンチも出た。これからアルベルゲを出る。
夜明けごろに雨音を聞いたが、ありがたいことに雨は降っていなく、降る気配もない。通り雨だったようだ。
ありがたいといえば、トイレット・ペーパーがぎりぎりで足りた。アブナイ。最近は確認もしないで用を足してしまう。慣れは禁物。初心忘るべからず。
▼ひと晩お世話になったアルベルゲを出発。階段が濡れているが、通り雨のようだ。
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空は雲が多い。太陽はおがめそうにないが、寒くはない。今日も歩くのみだ。
アストルガの町を抜け、田舎道を粛々と歩く。時計を見ると9時20分。ようやく2時間歩いたか。けっこうバテたな。今日は出発のときから体が重かった。
なんとなく意気が上がらない。そのとき、背後からカツカツと変な音が聞こえてくる。振り返ってびっくり仰天。なんと馬じゃないか。この旅初めての馬の巡礼者。3頭が列をなして追い抜いていった。
▼巡礼の手段として馬があることは知っていたが、実際にやる人がいるとは思いもしなかった。
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この日は3頭の馬軍団と抜きつ抜かれつの一日だった。歩くのは馬のほうが速い。だが、休憩時間は人間より長いようで、馬が休んでいる間に追いつく。その繰り返しだ。
▼カメラを向けたらわざわざ止まってポーズをつけてくれた。デカイ馬だ。形もいい。
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9時34分、サンタ・カタリナ・デ・ソモサ村の入り口に着く。木立の間の道を歩いて村に入り、休まずに村を通り抜ける。何もない村だ。
▼サンタ・カタリナ・デ・ソモサの村に入っていく巡礼者。彼らのような軽いリュックで歩きたい。
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このあたりは風景が日本のそれによく似ている。緑の木々が点在し、遠くに山が連なって見える。今まではすべてが茶色だっただけに、変化が感じられる。
▼風景が少し変化したように思う。左の道は舗装、右は砂利道と2本の道が平行して走っている。
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▼道端で休んでいたら、レオンで再会した韓国の女性が追い抜いていった。
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▼休憩を終え、歩きだしてすぐに立派な十字架に遭遇。巡礼中にこの場所で亡くなったのだろうか。合掌。
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▼10時47分、エル・ガンソの村が見えてきた。前を行く2人の身軽さがうらやましい。
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▼バル「COWBOY」の前で馬軍団が休んでいた。
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▼右の若い男性はビール片手に満足そう。これまたうらやましい。
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▼エル・ガンソ村の出口に建つ十字架。旅の安全を祈ってくれるのだろう。
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エル・ガンソを通過したのが10時58分。今日の目的地ラバナル・デル・カミーノまであと7kmだから、遅くとも1時には着くだろう。ここまでくれば気が楽だ。
今歩いているあたりの景色は、日本でもよく見かけるような感じがする。どうも遠くに山並が見えるという風景が、そんな印象を与えるようだ。
▼平野が終わり、山が近くなってきたのを感じる。日本にもありそうな風景だ。
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▼林の中で馬軍団が休んでいた。夜はどこに泊まるのだろうか。
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林道を抜け、2車線の舗装道路をしばらく歩くと、木立の向こうに教会の鐘楼が見える。どうやらラバナル・デル・カミーノに着いたようだ。やれやれ。
村に入る道路わきに看板があり、そこにはなんと日本語が書かれていた。が、意味不明。「危険は働く」というのだから。
▼危険は働く……1行上のDANGER WARKSの直訳みたいだが、工事中危険ということかな。
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珍しい看板を見たな、と思いつつ村に入ると、今度は馬を発見。馬軍団の黒3頭とは違い褐色の鹿毛だ。バルのそばの立木につながれていた。これまた巡礼馬だろう。
▼鞍をつけているところをみると、持ち主はバルでビールでもひっかけているのか。
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立て続けに巡礼馬に会うなんて珍しいこともあるもんだ、と感心している間に公営のアルベルゲに着いた。目と鼻の先には私営のアルベルゲもある。ちょっと迷ったが、私営は混みあっていそうだったので公営のほうにした。12時54分、受付完了。
▼公営のアルベルゲ。質素な造りの建物で、1・2階合わせてベッド数34。4ユーロだった。
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▼ここはなんとベッドが一段だった。アルベルゲでは初体験。
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ルーチンワークのシャワー・洗濯を終え、庭の物干し場に洗ったものを干す。午後から雲ひとつない快晴。ふりそそぐ日差しを受け、風に揺れる洗濯物を見ると、なぜか幸せな気持ちになる。この5年ほど主夫業をやっているせいもあるし、もともときれい好きなのだ。
さて、今日の仕事はこれにて終わり。お昼ご飯にしよう。隣の私営アルベルゲのバルにでも行ってみるか。
▼2時をかなり回っているのにバルはけっこう混んでいた。
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▼ミックスサラダが大盛りで大満足。トルティージャとパンまで平らげたら、おなかパンパン状態に。
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昼食を終えて腹ごなしの散歩。人口が50人ほどの小さな村とガイドブックにあったが、確かに30分ほどでひとまわりできた。
▼昼下がりの村は人通りもなく、ひっそりと静まり返っていた。昼寝の時間だ。
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▼3時半を回ったころ、雲が少し出てきた。快晴の空もいいが、これもまたいい。
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▼このあたりの標高は1100メートルを超えているらしい。高原の村という感じがするなあ。
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▼太陽が沈み、家々の明かりが灯るころは、ひとりでいるのがちょっと寂しくなる時間帯だ。
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小さな村に夜のとばりが下りていく。西の空はまだ少し明るいが、すぐに光は失われるだろう。そんな時刻に村を見下ろす高台にたたずんでいると、里心というか、郷愁というか、今は旅の空なんだな、と強く思う。
歩く土地土地は目に新しく、時に楽しく、時に苦しく、時間が過ぎる。日が明け、日が暮れ、眠りがくる。それらがどうも、かりそめのもののように思えるのが、今のような夕暮れ時だ。
こうやって気持ちのいい風を受け、暮れゆく村を眺めたり、風にそよぐ葉音を聞いたりしていて、それはそれですばらしいのだけれども、なぜか地に足がついていない感じがする。
かりそめの時を過ごしているという感覚も、そこから生じている。
旅の空というのは、いったいにそういうものなんだろうか。
暗くなった道をアルベルゲへ戻る。今日もコオロギが鳴いている。
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