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脳梗塞よれよれ日記【005】 |
心原性脳塞栓症はコワイ | |
◆2017年03月13日(月) 発症5日目 | |
今日は検査が2つ。 午前11時に頭部のCT検査、午後2時、心臓と頸動脈のエコー検査。 その合間をぬってお勉強だ。 さて、脳梗塞の3つ目のタイプ、「心原性脳塞栓症」について。 これは、「心原性」という枕がつき、脳梗塞ではなく「脳塞栓症」という名前になっている。病名からして、前の2つとは明らかに違うタイプの脳梗塞だということがわかる。 では、何が違うのか。 まず「心原性」についてだ。 字義どおり、「心臓(心疾患)が原因」と理解しておけばいいだろう。 心臓が原因で脳梗塞が起きる? これは、前回、前々回の2つとはまったく違う。 それぞれ離れた臓器なのに、どんな関係があるのか? その関係はすぐにわかるので説明はあとにして、病名の続きだ。 「心原性」に続く「脳塞栓症」は、平たくいえば「脳が塞栓される症状」と読める。 この場合の脳は「脳の血管」の省略だ。それを塞栓する=栓をして塞ぐ(*注1)のだから、前回までに学習した脳梗塞の時系列式にほぼ重なる。 脳の血管が「詰まる=栓をして塞がれる」➜血流がストップする➜脳細胞が死ぬ ➜体の障害発症 こうなると、「心臓が原因となる血管を塞ぐ栓」とは何か、が次の問題だ。 答えは、「心原性」のあとに、省略されている2文字、「血栓」を入れればいい。 つまり、「心原性血栓」=「心臓(心疾患)で発生する血栓」、そんな意味でとらえればいいだろう。 例によって時系列式で表せばこうなる。 心臓に血栓発生➜動脈流に乗って脳へ➜脳の血管が塞がれる➜血流がストップす る➜脳細胞が死ぬ➜体の障害発症 と、ここまではわかった。 一見、無関係に思える心臓と脳は、血流によって結ばれていた。考えれば当たり前のこと。心臓が送りだした血液は、血管を通って全身にいきわたるのだから。 そして、 最後に残った疑問が「心臓起因の血栓」とはいったい何かということだ。
この血栓だが、改めて定義を記しておくと、 「生体内を循環している血液が、血管の中で凝固したものをいう。血栓によって血管が閉塞した結果起る病的状態が血栓症である。血栓は色によって、白色血栓、赤色血栓、混合血栓に分けられる」となる(*注2) 血液については今さら説明されなくてもわかっている。多くの人はそういうだろう。じつはわたしもそうだった。だが、調べてみると、血液は意外な性質を持っていた。 血液は常に流れている。サラサラ……と。 最近は、このサラサラが特に重要視される。ドロドロだといろんな疾病を引き起こすからだ。脳梗塞など、血液ドロドロのせいだといってもいいぐらい。 ところが、血液は本質的にドロドロになる凝固能力を秘めている。 というのも、大出血したとき、サラサラ血液のままだと、流れ続けてすぐに失血死してしまう。こんな場合は、すぐさま凝固してドロドロ、ガチガチになり、血液の流出を抑えようとするのは当然だ。 通常はサラサラ、でも、出血のような非常時にはドロドロ。まったく正反対の性質を持っているのが血液なのだ。 それを踏まえ、サラサラ血液から血栓形成に至る過程を調べてみると、血栓の形成には「血小板」系と「凝固能亢進」系の2つがあることがわかった。 詳しいことは「*注3」を参照していただくとして、ここではアウトラインを述べておく。 まず、「血小板」系。 血管が傷つき出血すると、ご存じ「血小板」がワッと凝集し、血栓をつくって傷口をふさぐ。この「血小板血栓」は、動脈で形成される「動脈血栓」だ。 血栓内に血小板がたくさん含まれるため、血栓が白っぽく見える。ゆえに「白色血栓」と呼ばれる(血小板そのものは薄い黄色)。 一方、「凝固能亢進」系は、静脈で形成される「静脈血栓」。 血小板は知っていても、凝固能亢進については、学校でもならった覚えがない。古希を目前にしたわたしだから、覚えていないだけかもしれないが。 それはさておき、静脈血栓の形成は、血液中の12種もの凝固因子が次々に活性化することで行われる。 その凝固能亢進は爆発的といってもいいもので、最終産物である大量のフィブリンが、赤血球を包み込んで網目状のがっちりした膜(血栓)をつくる。 このフィブリン血栓は赤血球を多く含むため、赤く見える。「赤色血栓」という呼称のゆえんだ。 前回までに勉強してきた2つの脳梗塞は、いずれも動脈で起きている。だから、まとめると、こうなる。 *アテローム血栓性脳梗塞&ラクナ梗塞の血栓=動脈血栓=白色血栓 では、心臓で形成され、脳に飛んでいく血栓は赤色か白色か。 答えは赤色血栓。 ということは、心臓は静脈? そうではなく、心臓での血栓形成は、心臓内に静脈と同じような環境ができたときに行われる、ということだ。あくまでも「環境」の問題だ。
血栓の形成を左右する環境、それは「血流の遅速」である。 一般的に、動脈は流れが速く、静脈はよどみがち。静脈に逆流防止用の弁があるのも、血流がよどんで逆流でもされては困るからだ(*注4)。 で、血流が速いと、血小板が活性化しやすい。だから動脈には白色血栓ができる。 逆に血流が停滞・うっ滞すると、凝固系が活性化する。結果、静脈では赤色血栓ができる。 ということは、心臓でも血液が停滞するのか? もちろん、規則正しく脈を打っている心臓なら、血液がよどむことはない。ところが、心臓に疾患があると、時として血流が乱れることがある。 じつはこの疾患、ペースメーカーを勉強しているときに出てきた「心房細動」というものだった(詳しくはペースメーカーの憂鬱【028】参照)。 心房細動とは、心房が350/min以上の頻度で、無秩序に興奮している状態を指す。こうなると心房が有効に収縮できないため、血液は心房内部で渦を巻いてよどむ。これが、静脈と同じような血流の停滞・うっ滞環境になるのだ。 こうなると、凝固能が亢進、必要もないのに血栓をつくってしまう。まったく困ったものだが、これも人体のパラドックスなり。 心房細動以外に、血栓をつくる主な心疾患には、次のようなものがある(*注5)。 *洞不全症候群 *急性心筋梗塞 *弁膜症 *心筋症 *感染性心内膜症 *ペースメーカーなど(*注6) さて、最後に触れておきたいのは、この心原性脳塞栓症の重篤さだ。 というのも、心臓血栓は大きなものができやすい。それが血流に乗って脳に飛んでいくと、太い脳血管で詰まる。 太い血管の支配領域は広範囲にわたるから、いったん梗塞が完了してしまうと、後遺症も甚大なものになる。 しかも、血栓は脳から遠い心臓でできるわけだから、脳の血管に動脈硬化などの異常がなくても、安心できない。脳だけ注意していればいい、というわけではないのだ。 心原性の脳梗塞の場合、ほとんどは不意打ちの発症で、急速に梗塞が進んでしまう。これも心原性脳塞栓症の大きな特徴(*注7)。 いずれにせよ、予後は厳しい。 できることなら発症してほしくない脳梗塞なのである。 そのためにできる有効な手立ては、心臓に気を配ることしかないようだ。つまり、心房細動が起きていないかどうか、怠りなく見張ること。 厄介なことに、歳を重ねるほど、心房細動を発症する人が増えるという統計がある。 健康診断なり人間ドックなりを受ける機会があれば、心電図検査も項目に加えることだ。 幸いというべきか、わたしはペースメーカーを植込んだおかげで、心臓に関しては準備万端怠りなく毎日を過ごしている。ペースメーカーが心房細動を見張ってくれているし、なんとか回避できそうな気がしている。 憂鬱なペースメーカーだが、こんなメリットもあることを発見すると、少しは見直してもいいかという気持ちになる。どげんかなりそうだ。 勉強はまだまだ続くが、夜、9時には寝るしかない。消灯。 午前1時、点滴交換の物音で目覚め、それから朝まで半覚半眠状態。不眠度合いは昨日より悪し。どこかの病室から、ひと声「オーッ」と雄叫びが聞こえる。 【005・心原性脳塞栓症はコワイ 了】
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