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脳梗塞よれよれ日記【010】 |
医者の怒声が響いた面談 | |
◆2017年03月21日(火) 発症13日目 | |
3連休が終わった。 今日は、予報どおり朝から雨。気温も低いみたいだ。 午前中にリハビリを終え、あとは検査結果の説明を待つのみ。なのに、午後1時に来ると言っていたカミさんが来ない。 電話するとまだ電車の中だった。 なんでと聞いたら、約束は2時だと主張する。言った言わないを争ってもしかたがない。早々に電話を切った。 これが予兆だったのか、3時の予定より1時間遅れで始まったF先生との面談は、MRI検査をめぐって、言った、言わないのやりとりがあり、最後は怒声を浴びせられた。 ビックリ仰天。医者の恫喝なり。これでは、患者は黙するよりほかなしだ。 事情はこうだ。 当院に救急車で運ばれ、入院してびっくりしたのが、MRI検査の扱いだった。 まず、言われたのが、ペースメーカーを植込んだ人のMRI検査は、夜間はできない規則になっている、ということ。 え、えっ、それだと、梗塞発作後4.5時間以内に施術しなければいけないTPA(経静脈血栓溶解療法 *第001回の注1を参照)は、不可能ということになる。 わたしの場合は、たまたま症状が収まり、正常に戻っていると感じた。だから、TPAは不要だと思う。しかし、どうしてもTPAが必要な重症のペースメーカー装着者は、どうなるのだろう? それだけではない。翌日、わたしのペースメーカーは当院で扱っているペースメーカーとは別のメーカーのものなので、登録から始めなければならず、撮影までに2、3週間かかると聞かされた。 そんなに待たされるのかとガックリきたが、それしか方法がないならしかたがない。 と、そこまでは間違いなくF先生の口から聞いた。でも、MRI検査に関してはそれっきり。時間がかかるのはしかたがないので、待つしかないな、なんて考えていた。 しかし、3月14日に看護主任のMさんにMRIの予定を聞くと、それはやらない方針だと言われ、びっくり。いろいろ聞くうち、撮影までに時間がかかりすぎ、その間に何かあるといけないので、MRIなしの検査で予防治療を決めるとのことだった。 MRIがなくても信頼性は十分、と断言する。ま、それもやむなし(第006回参照)。 ところがその3日後に男性看護師から、ペースメーカーの植込み期間が短い人はMRIの撮影ができない、だから中止になった、と聞かされた。 なんだかわけがわからず、F先生の説明のとき、詳しいいきさつを聞いてみようと思っていた。 そんな経過があり、今日、その件に触れてみたのだ。すると突然、周囲に響きわたる大声で、MRI検査をしないことはちゃんと話している、カルテにも書いてある、わたしは間違いなく伝えている! とどなるのだ。 あっけにとられると同時に、これは少々やっかいなことになるかもと感じた。 MRIがなぜダメなのか、F先生から説明を聞いたことはない。じゃあ、カルテを見せてくれと受けてたてば、どうなるか。いわずもがなだ。 う~む、どげんもならん……。 残念なり、無念なり。泣く子と地頭には勝てない。 ひと呼吸おいて、そうですか、ゴニョゴニョ……と言葉を濁して矛をおさめ、メモをとるだけにとどめた。それでその場はおさまった。 先生も興奮を鎮め、 「脳のMRIは以前撮影したT病院でやってもらうのがいいでしょう」 という。わたしもハイハイと冷静にうなづく。
脳のMRIは昨年の6月、ペースメーカー手術をしたT病院で撮影している。なので、そのときの画像と新しく撮った画像を比べ、変化がなく、梗塞巣がなければ、今、処方しているバイアスピリンの服用をやめる選択肢も出てくるという。 たしかにそれもあり、だ。 ただし、T病院が応じてくれれば、の話。が、わたしはダメだと思う。 T病院には脳神経内科がなく、今回の発作時、最初に電話したのだが、診療科がないと断られている(第001回参照)。 でも、これ自体はいい情報だ。どこか、適当な病院で脳梗塞疑いの確定診断のためにMRIを撮り、T病院からデータをもらって、突き合わせる。うまくいけば、バイアスピリンは服用しなくていいかもしれない。やる価値はある。 というようなことで、第一幕はここで終わり。肝心な検査結果だ。 まず、期待していた造影剤使用のCT画像。正式名称は「脳血管3D-CTA」(脳血管三次元造影CTアンジオグラフィ *注1)。 名前から想像していたとおり、頭の内部に立体的な血管が浮かんでいる。モニターに映しだされた画像を見て、オーオッ、すごい、のひと言。 拡大・縮小はもちろん、前から後ろから、上から下から脳血管の様子を手に取るように見ることができる。
これが先生の画像評価だった。 わたしは事前に読んでいた資料から、動脈硬化に起因するアテローム血栓性脳梗塞を予想していた。だが、先生は、3D-CTAを見る限り、それは考えなくてもいい、と断言する。 「ただ、強いて言えば、左頸動脈のこの部分が気になりますね」 先生が示す部位は、くびれたような形状をしており、素人目にもたしかにおかしい。右の頸動脈と比較すると、違いがはっきりわかる。
総頸動脈が分岐する部位のこういった形状は、変形部分にプラーク(アテローム)蓄積があり、進行した動脈硬化と読めるらしい。 したがって、ここから血栓が飛んで、脳血管を詰まらせる可能性は、大いにあるようだ。 左図でわかるように、分岐部分から脳までは非常に近い。そして、脳に近づくほど血管は細くなるのだから、やがてはどこかで詰まる――。 「しかし、今回の異常は、ここが原因でないことは、はっきりしています。脳梗塞様の症状が出たのは右脳。とするなら、血栓は右の頸動脈からきているはずだからです」 先生のこの言葉には注釈が必要だ。梗塞が右脳で起きたかどうか、それは検査ではまだ確定していない。先生が右脳と言うのは、発作が起きたときのわたしの症状からの推察なのだ。 わたしの症状は、次のようなものだった。 ①めまい ②左手の指先・左足の指先の強いしびれ ③腰くだけのような脚の脱力感 この場合、左側の手足のしびれ症状が重要。脳梗塞の場所と症状は、左右交差している。つまり、左の手足に症状が出たということは、梗塞したのは右側の脳ということになる。 しかし、画像でわかるように、右側の脳につながる右頸動脈は、なめらかで太い血管が延びている。どこにも血栓を生みだすような異変は見当たらない。 「将来的には、左頸動脈由来の脳梗塞が起きるかもしれません。しかし、現状、脳血管には、梗塞を起こすような顕著な異常はありません」 これが先生の診断だった。 わたしはアテロームの可能性が高いと思っていた。でも、この3D-CTA画像を見ると、先生が言うとおりそれはないだろうな、と思う。自分でいうのもなんだが、わたしの脳内血管は丸々と太り、いかにも健康そうだ。
というわたしの問いに、先生は、 「心原性のほうが可能性は高いかもしれませんね」と言う。 わたしの心臓がペースメーカーの補助で動いている現状では、先生が指摘するように「不整脈を起こさないとは言い切れない」からだ。 しかし、心原性についていえば、素人のわたしでも疑問が生じる。先生の意見には賛成しかねるのだ。 心原性の場合、脳血管を詰まらせる塞栓子の血栓は、左心房に発生する細動が原因だ。心房細動で血液がよどみ、ドロドロになって、血栓ができる。それが脳まで飛んでいって、脳の血管を詰まらせるわけだ(心房細動については第005回を参照)。 わたしの場合、ペースメーカー手術前の検査入院時、心房細動はないと言われた。また、ペースメーカーを植込んでからの9か月、ペースメーカー自体が内蔵記録している心電図データは、5日おきにサーバーへ送られ、異常がないかチェックされている。 そして、ペースメーカー手術をしたT病院のY医師から、こう聞いている。 「もし、心房細動などの異常があれば、わたしのところに連絡がきます」 「連絡がきたことはあったのですか?」 「いえ、一度もないですね」 さらに、この病院に入院してからの13日間、ホルター心電計をつけて、24時間、心臓の動きを監視している。そのデータで細動が起きたという報告はない。 そのうえ、入院して5日目に心臓エコー検査もやった。この検査では、心臓内に血栓ができているかどうかがわかる。もし見つかれば、その時点で、心原性脳塞栓症の確定診断が下されるはずだが、それもない。 ということで、結局のところ、心原性についても可能性とか推定としか言えず、漠とした状況。
また、先生は、わたしの発作は、脳梗塞の前兆ではなく、脳梗塞とは関連しない「高血圧性脳症」(*注2参照)でも説明できるという。 「高血圧性脳症は、脳内の血液循環が、突発的な高血圧により乱されることで、血液不足によるめまい、脱力、顔面麻痺などを起こす疾患です」 と、先生は説明してくれた。 先生が言う「めまい、脱力、顔面麻痺=ろれつが回らない」は、たしかに発作時の症状に合致する。 そして、わたしが救急車で運ばれてきたとき、バイタルチェックの血圧が「207」と異常に高い数値になっていたことも根拠になる、と先生は言う。 発作から病院に来るまで1時間はかかっていると思う。それでもまだ「207」の数値なのだから、発作時はさらに高かっただろう。 先生が推測するように、「高血圧性脳症」なら、脳梗塞のことは考えなくてもいい。つまり、予防の薬を飲んだり、再発の心配をする必要がなくなる。わたしにとってはいい情報だ。 しかし、いい情報ではあるものの、確定するには至らない。 そこで、最後に、ネット情報で読んだ「血行力学性」による梗塞発作についても聞いてみた。これは、 「もともと血管の狭窄(血管がせまくなること)があるものの脳梗塞を起こしてない状態に、血圧低下や脱水などが原因となって、脳の血流量が低下する事によって起こるものです」(*注3参照) しかし、入院時の血圧が異常に高かった事実があり、可能性は低いと却下。なぜなら、血行力学性の脳梗塞は、「血圧が異常に低くなり、脳の血流量が低下する」ことによって起こるものだからだ。 つまるところ、可能性や推論はいくつもある。だが、わたしが体験した梗塞発作の原因は不明ということだ。 そして、結局、総合的な診断は「一過性脳虚血発作」という結果になったのである。 今日までの13日間、入院・検査した結果、曖昧模糊の幕切れ、というのがわたしの率直な印象だ。 まあ、脳梗塞には至らない一過性の発作だから、文句を言う筋合いではないが。 これからのスケジュールは、金曜日に最後のCT検査を行い、異常がなければ土曜退院と決まった。 「退院したらなるべく早くMRIを撮ってください」 とF先生はつけ加える。 あ~あ、面倒だなあ。本来なら、退院すれば一件落着、あとは予防治療に専念すればいいのに。 どうにも気持ちがスッキリしない。怒声を浴びたうえに、中ぶらりんの状態で病院から放り出されるようで、退院が決まった喜びなどみじんもないのであった。 【010・医者の怒声が響いた面談 了】
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