▲路傍で見かけた祭壇らしき建造物。日本だと祠に相当するもののようだ。ブレア村あたり。

巡礼旅の緊張感
【40日目12年10月18日(木)曇り時々小雨Arzua➔Pedrouzo18.8km/累計760.2km

 8時6分出発。この時間だと、大通りは車が激しく行き交っている。歩行者に注意をはらっている余裕はないようで、モタモタしているとあぶない。右を見て左を見て俊敏に。
 それでも30分ほど歩けば、もう静かな農村地帯になる。一面にモヤがかかり、いい感じの夜明けだ。

▼夜明け前の静かな村を通る。

 夜は明けたが空は曇っている。今日も太陽はおがめそうにないな。
 ガイドブックに出ていたユーカリの林の中を歩く。コアラが昼寝している木、というイメージしかなかったが、初めて見るユーカリは見上げるほどに高かった。

▼ユーカリの林。コアラが好んで食べるユーカリとは種類が違うようだ。

 そんな林の中の道を歩いていると、立派な舗装道路に出てしまった。ガイドブックを見ると、巡礼路は国道N-547号線に交わったり離れたりしながら、ほぼ並行してサンティアゴまで続いている。ということは、これは国道なんだろう。

 どこかで標識を見落としたか、あるいは国道自体が巡礼路の一部なのかもしれない。いずれにせよ、このまま歩いても大丈夫だろう。

▼2車線の舗装道路。たぶん国道N-547号線だろうから、このまま進んでも大丈夫だと判断。

 しばらく歩いても、舗装道路に巡礼道を示す標識は出てこない。いいのかな? いいんだよ。これが巡礼路じゃなくても、いずれどこかで巡礼路と交差するんだから。
 不安がつのりはじめたころ、100メートルほど離れた林の中を巡礼者が通っているのが目に入った。この国道と並行している。ホッとひと安心。

▼国道から元の巡礼路へ。どこかで標識を見落とし、国道へ出てしまったようだ。

▼残り29.5kmを示すモホン。
 10時5分、元の道に合流。と思ったとたんに、ア~ッという事態が。
 道に迷って国道を歩いている間に、30kmのモホンを通過してしまった! 今、目に入ったのは29.5キロのモホンだ。

 10kmおきにモホンを撮っていこうという計画も、これでおじゃん。
 500m戻って撮影すればいいじゃないか。往復してもたかだか1kmのロスだ。
 
 が、これができない。とにかく、戻るということがイヤなのだ。
 前へ、前へ……。お遍路から始まった巡礼旅は、その一念で歩いてきた。そうした旅で、戻るということは、間違い・失敗を意味する。だから、絶対にやってはいけない。

 戻る、引き返す。これはわたしにとって、もはやトラウマになっているのかも。

 先へ行こう。
 なんだか急に疲れてしまった。バルがあるようだし、ここらで休むとするか。

▼呼び込みのおねえさんに誘われてひと休み。

▼突然、拍手と歓声が聞こえたのは、誕生日の祝福で、63歳のおじさんはいかにも嬉しそうだった。

 いいものを見せてもらった。誕生日を祝ってもらったおじさんは、何も聞かされていなかったようで、とても感激していた。こんなサプライズを用意してきた仲間もいい人たちだな。
 チーズ&ハムのボガディージョを食べながら、わたしもニコニコ顔になる。ボガディージョのチーズが豪快にはみだしていた。これがボガディージョらしさを演出するミソかも。

 10時45分、休憩終わり、気分晴々で出発。

▼小雨が降りだした巡礼路。

▼モホンは500m刻みだと思っていたら、26.3Kmという半端な数字のモホンがあった。

▼古びた家と色づきはじめたブドウの葉。巡礼路は左。

▼羊の様子を見にきたのだろうか、傘をさした老婦人が野原にたたずんでいる。老婦人だと思うが。

▼今日の巡礼路はこんな林の中を歩くことが多い。ユーカリや松といった木々が育っている。
   残り20km
 

 おっ、モホンがある。20kmだ。路肩を削って場所をつくり、そこに設置してあるから、まず見落とすことはない。500メートルmおきに建っているとはいえ、周囲にとけこんでまったく目立たず、見逃してしまうモホンもあるからね。

 20kmというと、ちょうど一日分の距離だ。本来なら、明日にはサンティアゴ到着となるところだが、一日先延ばしのスケジュール。余裕がたっぷりあるのと、最後の歩きになるから、ゆっくり名残りを惜しみながら歩きたい、と思ったからだ。

 8日前のカカベロスで決めた予定だが、思惑とは少し違ってきたな。このところ巡礼路の雰囲気が悪くなったのを感じる。ひとことで言えば、緊張感がなくなってしまったような感じだ。

 挨拶をしないやつもいるし、自分勝手だし(思いやりがない)、観光気分まるだしの集団もいる。偏見かもしれないが、100km巡礼者が急増したサリア以降、どうもイカン。彼らにとっては5日の旅だが、わたしには40日を越える苦難の旅だ。ヘラヘラ歩くことなんかできないんだよ。

 ついでに言えば、このところの山道も意気が上がらない。四国や熊野を歩いているのと同じ風景で、新鮮さがないんだなあ。最後がこうなるとは思いもしなかった。

 ……なんだ、なんだ、これは。愚痴を言ってもはじまらないぜ。おなかがへってイライラしてるのか。今日と明日しかないんだからな。楽しんで歩かなくちゃ。

 モホンから2kmぐらい歩いただろうか、12時56分、道路わきに小石を積み上げた小さな塚を見つけた。写真と楕円形のプレートが置いてある。
 ここでもまただれかが亡くなったのか。あとほんの少しでサンティアゴだというのに。合掌。

▼こうしたものを見るとやはり胸が痛む。ほかにやりようがないので合掌して通り過ぎる。

 13時39分、ペドロウソに到着。巡礼路は村を通らず、森の中に入っていく。しかたなく、巡礼路を示す黄色い矢印とは逆方向に進み、村の中心部に向かう。そして、広い通り沿いに見かけたペンシオンにチェックインした。

▼2階と3階がペンシオンになっているようだ。先客がひとり、ちょうど玄関を入っていった。

▼ひとりには十分な広さ。なかなか快適な部屋だった。

 ちょっと寒いが、例によって午後の散歩に出かける。2階の部屋から見ると、広い通りが一本、どんと走っているだけの村。見るべきものもなさそうだが、宿に落ち着いたあとの散策はもうすっかり習慣になってしまった。

▼2階の部屋から見下ろしたペドロウソの大通り。歩いている人もいなく閑散としている。

▼巡礼路はこの細い通りを7、8分歩いたところ。明日の朝、間違えないように確認しておく。

 大通りをぶらぶら歩いていたら床屋を発見。もう2か月近く頭を刈っていない。寝癖がつくほどに髪の毛が伸びている。ここいらでさっぱりして、気持ちよくサンティアゴに行こうか。
 スペイン語で坊主頭ってどう言うんだろう。ちょっとドキドキしながら、勇を鼓して入ってみたら、ノー。えっ、なぜ? 店にはだれもいないのに?

 若い理容師がノートを見せてくれ、「フル」とひと言。そうか、予約で満員なんだ。坊主頭だから10分もかからない、合間にさっとやってくれないか――なんて言えないし、退散。

 夕食の店も決め、通りの家並も切れたので引き返そうと思ったとき、向うから歩いてきた巡礼者が、なんとブラジルのジョディだった。
 思いがけない再開。こんなところでまた会えるなんて、奇遇もいいとこだ。

 彼女は今晩はこの村のアルベルゲに泊まり、明日サンティアゴ到着の予定だそうだ。わたしより一日早い到着。普通はそうなんだよ。ここからだとサンティアゴまで20キロを切っているのだから。

 再開を祝して、といきたいところだが、彼女はこれからアルベルゲまで行って、ようやく今日の終わり。のんびり散歩のわたしとは違う。
 バーイと歩きだす彼女。それじゃまた、と言いかけて、またはないことに気づく。サンティアゴに着けば、長かった旅も終わりを告げる。そして、それぞれがそれぞれの国に帰っていくのだ。巡礼路で会うことは二度とない。

 一期一会だなあ。

▼ペドロウソの夕暮れ。西の空が輝いている。これなら明日は晴れるだろう。

 今日も疱疹おさまらず、かゆい。疲れをとり免疫力を上げるしかないな。寝るに限る。


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      ◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ