▲サンティアゴ巡礼は、ピレネー山脈の麓の町、フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポーから始まった。
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巡礼旅の起点はサン・ジャン・ピエ・ド・ポー
【1日~2日目12年9月9日(日)~10日(月)成田Saint Jean Pied de Por】

 フランス人の道を歩く場合、ピレネー山脈の麓、フランスの西端にあるサン・ジャン・ピエ・ド・ポーの町が起点になる。

 日本を発ったのが、2012年9月9日、成田発12時5分のアエロフロートロシア航空0261便だ。
 航空券は、行きはパリ着、帰りはマドリード発のオープンジョーを「イーツアー」でネット購入。すべて込みで13万6720。高いと思うが、あれこれ迷っているうちに時間がなくなり、高値で決めざるをえなくなった。準備は早いにこしたことはない。

 モスクワ経由でパリに飛び一泊。ホテルは日本で予約。楽天の予約サイトで1万5900円のホテルにした。高いけど、旅の開始1日目の宿泊だし、駅にも近い。

 翌朝、モンパルナス駅からフランス国鉄のTGV(日本の新幹線に当たる列車)でバイヨンヌに行く。この切符は「レイルヨーロッパ」を使ってネット予約。格安1等1万1800円。

▼パリのモンパルナス駅。列車は8時29分発。7時40分には駅に着いたので、時間はたっぷりある。大きな駅のようだが、TGVの乗り場までは余裕でたどり着けるだろう。昨晩のホテルを、駅まで歩いて5分のところに決めたのは大正解だった。好調なすべり出しに緊張もやわらぐ。

 余裕しゃくしゃくで駅構内に入り、TGVの乗り場まではなんなくたどり着いた。問題が起きたのはそれから先だ。

 案内表示板を見ると、「08:29 TGV8515」という、わたしが乗るべき列車がちゃんと表示されている。だが、肝心の乗車ホーム番号が空白なのだ。
 どういうこと? モンパルナス駅にはTGVホームが、No.1からNo.24までズラーッと並んでいる。1番と24番では大違い。遠いところだと、走っても数分はかかるだろう。なのに、乗車ホームの案内欄が空白になっているなんて!

 落ち着け、落ち着け、まだ時間はある。
 おそるおそるインフォメーションに行き、案内嬢にチケットを見せて、場所? どこ? 片言の英語で聞く。
 すると、チケットを見て、なにやら言っている。どうやら問題はないようだ。
 ノープロブレム?  ウィ、ノープロブレム。

▼購入後にメールで送られてきたE-TICKET。右側の表が列車の各種指定欄になっている。

 この手のおのぼりさんには慣れているのだろう。大丈夫、大丈夫という感じなので、なぜ、乗車ホーム番号が空白なのかわからないまま、しばし待機。

 しかし、発車の時間が刻々と迫ってくる。1時間近くも余裕があったのに、もう30分前。だが、何度見ても、ホーム番号は空欄のまま。もう一度、案内嬢にチケットを提示するが、フランス語で早口に話すだけで、ぶっきらぼう。しつこいじいさんと思っているのがありありだ。

 見かねたのか、おじさん駅員が出てきた。で、「OK、ウェイト」と言っている。ウェイトは待て、だよな。でも、さっきからさんざん待ってるんだよ。
 スゴスゴ引き下がり、ベンチに座る。うつろな目で案内表示板を見ていると、文字列が上から順にパラパラと変わっていく。その瞬間、ようやくわかった。TGV8515車の乗車ホームはまだ決まっていないのだ。だから、決まるまで待て!

 ドキドキしながら待ちましたよ。私の推察が正しい保証はないのだからね。そして定刻の25分前、案内板の文字列がパラパラと変わっていく。
 8515車は、パラパラパラ……出た!「1」だ。
 それっ、1番ホーム! 小走りにホームへ向かうと、民族大移動の様相で、人々が群がってホームに突入している。

 日本の新幹線では、切符を買ったときから乗車ホームが決まっている。だから、発車の20分~30分前にようやく乗車ホームが決まるなんて、夢にも思わなかった。言葉ができれば別だが、そうでないと、思い込みにとらわれて、わたしみたいにドキドキ、ハラハラの時間を過ごすことになるのだ。おそまつさま。

 これで終われば笑い話だが、そのあとさらに「予約した座席が見つからない」という出来事が襲いかかった。

 1番ホームに着いて列車の先頭から順に座席をさがしていく。特1等から格安1等、そして特2等、格安2等と列車がつながっているようだ。
 それにしても長い列車だ。最後尾まで歩くと10分近くかかるのでは?

 列車は1等、2等と分かれているので、さがしやすい。だが、該当する座席番号が格安1等の車両にはない。焦って、もう一度先頭から見ていく。だが、どうしても見つからない。

 ホームに車掌らしき人がいたのでつかまえて聞くが、早口でまくしたて、身振りで後ろ、後ろと言っているのだけがわかる。

 だって、この後ろは2等車になってるよ、と言いたいのだが、当然ながら言葉が出ない。わたしのチケットを見て後ろと言うのだから、後ろなのだろうとは思うが、2等車を通りすぎてさらに後ろに行くと、また1等車の表示。

 あ~、わけわかんない! 発車まで、もう15分を切ってるぜ!

 三度、列車の先頭に行き、チケットの「COACH 02-SEAT34 CLASS1」を必死にさがしていく。「CLASS1」にはSEAT34なし。

 おっさん、どうなってるんだよ!
 こうなったらしかたがない。ホームにいる車掌に日本語で詰め寄った。すると、またもや、後ろ、後ろのゼスチャーだ。……このあとは同じことの繰り返しなので割愛。

 発車5分前、ようやく座席発見。長い列車のはるか後方にありました。
 要は、到着駅の違う2本の列車がつながり、途中で分離される形式のものだったのだ。日本でもたまにある。が、そんなこととは露知らず、1本目の「CLASS1」の車両だけをさがしていたのだから見つかるわけがない。

 重いリュックを背負い、ホームを走りまわったので、汗びっしょり。余裕の出だしは、思わぬ誤算で息たえだえだった。
 座席に座っても、ショックで呆然自失の態。あとでカメラを確認したら、モンパルナス駅舎の写真を撮って以降、バイヨンヌ駅に着くまで写真が一枚もない。それどころではなかったのだ。いやはや、この先、どうなることやら。

 バイヨンヌからは約2時間待ちでローカル列車に乗り継ぐ。この切符は、さすがに日本では予約できなかった。バイヨンヌ駅で購入する。9・4ユーロ。

▼バイヨンヌ駅で購入したサン・ジャン・ピエ・ド・ポー行きの切符。自動券売機もあったが、使い方がよくわからないので駅の窓口で購入。切符というより航空券のようなチケットだった。

 ユーロのレートは90~100円台を上下しているが、今回の旅では1ユーロ=100円のレートで換算することにした。これだと計算しやすい。9・4ユーロは940円。単純がいちばん。

▼バイヨンヌからサン・ジャン・ピエ・ド・ポーへ行くローカル列車。大きなリュックを持った人の姿が目立つ。みんなサンティアゴ巡礼に行くのだろう。リュックにつけたホタテ貝が巡礼者の目印だ。

 バイヨンヌ13時40分発。そして17時、ようやくサン・ジャン・ピエ・ド・ポーの駅に着いた。日本との時差がマイナス7時間(サマータイム期間。通常はマイナス8時間)あるから、成田から36時間かかったことになる。 

▼サン・ジャン・ピエ・ド・ポーの駅舎。この小さな駅に降り立ったのはほとんどが巡礼者のようだ。大きなリュックを背負っている。わたしも重いリュックを背負って駅の外に出る。長かったなあ~。

 小さなトラブルはいくつかあったが、なんとか出発点までたどり着いた。今晩のホテルも日本で予約してきた。
 いまやインターネットを使えば、世界のどこでもホテル予約ができる。しかも日本語で。フランス語、スペイン語、さらに英語もまったくダメなわたしには、じつにありがたい。

 今度の旅でわたしが使ったのは「Bookinng.com」。スペイン現地でも何度か予約をしたが、トラブルは一件もなかった。単にラッキーなだけだったのかもしれない。だが、予約確認書
▼ホテルの予約をするとメールで確認書が送られてくる。これを保存しておけば、いざというときの証拠になる。
さえ持っていれば、トラブルがあってもなんとかなりそうな気がする。

 予約確認書はプリントして持ってきた。あとはホテルまで行きさえすれば、今日の予定はほぼ終了だ。

 駅からホテルまでの地図はホテルのホームページからプリントして持ってきてある。
 どれどれ。改めて地図を見てみる。が、その地図と町並が一致しない。
 なんだ、これは? かなり省略されているようだ。さて、どうしよう。

 言葉ができればなんということはないのだ。ちょっと聞けばすむこと。が、そこはそれ、旅の初心者のうえに、なにせフランス語だよ。気おくれが先にたって聞く勇気がない。

 役に立たない地図を片手にウロウロするわたしの脇を、大きなリュックを背負った巡礼仲間がソロゾロ歩いていく。そうだ、彼らの後をついていけばなんとかなるかも。

 思ったとおり、後について5分も歩かないうちに町の中心部に着き、見まわすと今晩泊まるホテル「ITZALPEA」の看板が目に入った。だが、ホテルという雰囲気ではない。まるでカフェじゃないか。

 ちょっと心配しながら中に入り、店の主人らしい年配の女性に「Bookinng.com」の予約書を見せた。すると「おー、ようこそ!」(と言っていると思うのだが、フランス語はまったくわからないので勝手な想像デス)歓迎してくれた。ここでよかったんだ。まずはひと安心。

▼サン・ジャン・ピエ・ド・ポーのホテルは1階がカフェで、2階と3階がホテルになっていた。泊まったのは看板の真上にある2階の部屋。

▼ホテルというより普通の家のひと部屋という感じでくつろげた。ダブルルームの1名使用で、値段は朝食つき58ユーロ=5800円。フランスもスペインも素泊まりが原則。食事つきはめったにない。

巡礼者の証明書であるクレデンシャル

 チェックインをすませ、今日の最後のひと仕事、巡礼者の登録に出かける。
 サンティアゴへの巡礼者は、自分が巡礼者であることを証明するために、巡礼事務所で巡礼パスポートとでもいうべき「クレデンシャル」を発行してもらい、巡礼者としての登録を行う。これはサンティアゴ巡礼の基本中の基本だ。

 このクレデンシャルがあれば、格安(場合によっては無料)の巡礼宿に泊まることができる。また、公共の乗り物や博物館、美術館の割引など、クレデンシャルは、身分証明書と同時に優待カード的な使い方もできる。まあ、巡礼者にとっては黄門様の印籠のようなものだ。

 サン・ジャン・ピエ・ド・ポーの巡礼事務所は、ホテルから歩いて5、6分のところにあった。石畳が歴史を感じさせる坂道を上っていくと、黄色いホタテ貝のマークが目に入る。これがサンティアゴ巡礼のシンボルマークであり、巡礼者はこのマークを頼りに旅を続けるのだ。

▼鉄柵のホタテ貝の下の矢印が示す建物が巡礼事務所。観光客が物珍しげにのぞきこんでいる。

 中に入ると、狭い事務所では、今日到着した人たちがクレデンシャルの発行手続きをしている。わたしは日本でクレデンシャルをもらってきたので、それを出して巡礼者の登録を行い、巡礼出発地のスタンプを押してもらった。

▼NPO法人の「日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」でもらえるオリジナル・クレデンシャル。スペインでこれを提示すると、行く先々で珍しがられた。これから巡礼に出かける人は、ぜひもらってから出発するといい。友の会に申し込むと郵送で送ってくれる。実費1000円。

 NPO法人「日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」は、日本における唯一といってもいい「カミーノ・デ・サンティアゴの情報を提供するセンター」だ。わたしも講習会をはじめ、いろいろな面でお世話になった。詳細は同会のホームページで確認してほしい。

 わたしが持っているクレデンシャルは8面のつづら折になっており、その4面目に巡礼の出発地と日付を記す欄がある。そこにポンと大きな印を押してもらった。

▼クレデンシャルの4面目。左が出発地サン・ジャン・ピエ・ド・ポーの巡礼事務所のスタンプと日付。右はクレデンシャルの発行場所である日本の東京カテドラル聖マリア大聖堂のスタンプおよび発行日付。

 クレデンシャルの4面目以降は、巡礼路の各所でもらうスタンプ欄になっている。スタンプ欄はクレデンシャルの裏側にもあり、表裏合わせて64欄。

 実はこのスタンプには、重要な役目があるのだ。それは、巡礼者が確かに巡礼路を通過したという証明の印としての役割。
 巡礼の最終地サンティアゴ・デ・コンポステーラまで歩きとおした人には「巡礼完遂証明書」が与えられる。その際、スタンプと書き添えられた日付が、その土地を通過したという証明をしてくれるわけだ。

 もちろん、それで「すべて歩いた」という証明にはならない。車を使ってスタンプを押してまわってもわかりゃあしない。が、それは神のみぞ知る――ということだ。苦労して歩いたかどうか、それは自分だけの問題なのだから。

▼スタンプ欄。一面に8つあるが、なかには2つの欄を使って押されたスタンプもある。このスタンプは巡礼路上の村や町の案内所、巡礼宿、バル(居酒屋風の軽食屋)などで押してもらえる。できれば一日に2か所でもらうこと。また、サンティアゴの手前100kmからは必ず2か所以上でもらうようにする。「巡礼完遂証明書」は最後の100kmを自力で歩いたことが証明できる人にしか与えられないからだ。一日に2つ、3つのスタンプが押してあれば、間違いなく巡礼路を通過している証明にはなるからね。ちなみに、フランスやスペインでは、日付は「日・月・年」の順に記される。日本とは逆だ。

 6時には手続き完了。準備は整った。明日からいよいよ巡礼が始まる。
 当初の予定ではサン・ジャン・ピエ・ド・ポーにもう一日滞在し、完全に疲れをとってから巡礼を始めようと考えていた。しかし、日本で検索してもホテルの空きがなく、現地に来ても同じ。だったら明日出発しちゃえ。町をのんびり散策しながら、そう決めた。

 散策の途中でふと時計を見ると、もう午後の7時を過ぎている。なのに町は夕暮れにさえなっていない。この時間だと、日本だったら薄暗くなりはじめているのに。なんだか、得した気分になるが、これがサマータイムの効果というやつか。初めての経験だ。

 それにしても実に気持ちのいい時間だ。これをさわやかといわずして何をさわやかといわんや。空はまったくにごりのないすきとおった青空。吹き抜ける風はやわらかい。日中の汗ばむ陽気にかわって、今はさらさらした空間が身を包んでいる感じだ。

▼町の中を流れる川。そこにかかる橋と白壁の建物。この風景は、日本とはまったく違う。ここは外国なんだ、という思いを強くする。初めての海外ひとり旅でここまで無我夢中で来たが、ようやく旅の気分を味わう余裕ができたような気がする。

▼メインストリートのシタドール通りは観光客でにぎわっていた。

 ぶらりと町をひと巡りしてホテルに戻る。
 2階の部屋に上がる途中に、ロビーのような広間があり、そこでは無料のWi-Fiが使えるとのこと。さっそく家族へ無事到着のメールを送る。

 ロビーではまったく気づかなかったが、部屋に戻って窓の外を見たら、なんと雨が降っている。さっきまであんなにいい天気だったのに。雷まで鳴りだした。降り続く雨ではないようだ。山の天気は変わりやすいということか。ここはピレネー山脈の麓だものね。

▼ホテルの部屋から見た町並。城壁の外側が見える。内側は旧市街だ。明日は、城壁の門をくぐって旧市街に入り、うっすらと見える山並をめざして歩くことになる。あれがピレネーだろう。

 雨もやんだので夕食に出かける。そのついでに巡礼事務所に行ってみたら、夜の8時を過ぎているのに巡礼者が続々とやってくる。大きなリュックを背負い、息もたえだえという人ばかりなので、別のルートから歩いてきたのだろう。こんな時間まで本当にご苦労さん。

 旅の準備中に読みあさった巡礼体験記では、歩くのは午後の1時、2時ぐらいまでという人が多かった。わたしもそうするつもりだが、こんな時間まで歩く人もいるんだなあ。

 事務所のスタッフは食事に出ているようで、扉はしまっていた。その前で疲れはてた巡礼者たちが座りこんで、スタッフの帰りを待っている。スタンプをもらい、巡礼宿を紹介してもらうためだろう。
 明日は我が身。お互いがんばりましょう!


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