▲収穫祭を前に盛り上がるログローニョの夜の街。フラメンコの調べがスペイン気分をかきたてる。
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乳母車とブドウとお祭り
【11日目12年9月19日(水)曇りのち晴れLos ArcosLogrono28km/累計163.5km】

 5時ジャストに起床。トイレ中に6時の鐘がなった。出発まぎわ、起きてきた下段ベッドの彼女からゆで卵をもらう。朝食用らしき2個のうちの1個。貴重な卵をありがとう。

 1時間半歩いて小休止。もらった卵を食べる。半熟気味でうまい。
 休んでいる間に、同じアルベルゲに泊まっていた老夫婦が歩いていった。奥さんは完全にバテているようだ。小さなバッグを背負っているだけだったのに、それまでご主人が持ってあげていた。いたわりながら歩いている。

▼1時間半歩いて今は7時30分。夜はまだ明けきっていない。奥さんのバッグをぶら下げて歩くご主人。

 ようやく日が昇って明るくなった8時33分、なんと、乳母車を押して歩いている女性がいた。乳母車には赤ちゃんがすやすや眠っている。いったいどんな事情があって? 

▼乳母車を押して歩く巡礼者には初めて会った。これにはさすがに驚いた。

 事情を聞きたいのはやまやまだが、そんなこみいった会話などできるわけがない。とにかく道中の無事を祈り、「グッド、ラック!」のひと言で別れた。

 巡礼の目的は人それぞれだ。そして、各人が自分の目的に合った旅をする。彼女の場合はあのスタイルが必然なのだろう。

 巡礼路には歩くのでさえ困難な道もある。それを承知のうえで乳母車を押して歩くのなら、他人がどうこう言うべきではない。がんばって、サンティアゴまで歩きとおしてほしいものだ。

 9時26分、朝食兼用の休憩。チョリソとパン。休んでいる間は寒かった。早々に出発。やがて道は2車線の立派な舗装道路になる。遠くに見えるのはビアナの町のようだ。

▼巡礼路でこんな立派な舗装道路を歩くことはあまりない。歩きやすいが、車が猛スピードで通るときはコワイ。この場合の鉄則は、車と対面する側、つまりスペインは右側通行なので人は道路の左側を歩くこと。

▼ビアナのサンタ・マリア教会。雲がとれて晴れてきた。
 10時半過ぎにビアナの町に到着。休んだばかりなのでそのまま通過する。

 1時間歩いて町外れの高台に。ここからさらに1時間歩くと、今日の目的地ログローニョに着く。

 ちょっと早いが見晴らし抜群なので、この高台で昼食にしようか。
 そう思ってあたりを見まわしても、空いているベンチがない。考えることはだれも同じだ。ちょっと先に行ってみるか。

 高台から少し下ったところで涼しそうな木陰があった。靴を脱ぎ、シートを広げてお昼休みだあ~。

 まわりにはブドウ畑が広がっている。そのなかに、ブドウよりやや丈の高い木があった。近寄ってみると青い実がなっている。オリーブだった。木になっているのは初めて見たが、もう食べられるのだろうか?

▼初めて見たオリーブの実。この大きさだともう食べられそうな気もするが。

 ちょっと長めのお昼休みを堪能し、12時49分出発。ログローニョまで、ここから小一時間ぐらいのようだ。下り坂だからどうということはない。まわりはブドウ畑だ。

▼ブドウ畑が広がるビアナの町はずれ。かつての茶色い大地は少なくなり、ブドウの葉の緑が多くなった。

 州境の標識は見落としたが、ナバラ州を過ぎて、ワインの産地として有名なラ・リオハ州に入っているはずだ。畑には見事はブドウが実っているもの。

▼つややかなブドウの実。色はワインレッドにあらずダークパープル。まさに旬の色だと思うが。

 丈は1メートルほどしかないが、どの木を見ても輝くばかりのブドウが、身を寄せ合って葉陰に隠れている。ものは相談だが、ほんのひと房……ダメですかね?

 ダメ、ダメ。誘惑に耐えて歩くものの、前後に人影はなし。ついに敗北。弱い人間デス。
 粒は小さい。が、ものすごく甘い。まさに食べごろデシタ……。念のためにつけ加えておくと、食べたのはひと房だけ。

 13時19分、ログローニョの街に入る橋のたもとに到着。大きな地図があり、アルベルゲの場所がひと目でわかるようになっている。

▼こういう地図は助かる。撮影後、再生しながら見て歩くと、迷うことがない。

 橋を渡って町に入り、10分でアルベルゲ到着。だが、今日はガイドブックに出ていたオスタル(Hostal→Hは発音しない)に泊まろうと思っていたので、アルベルゲには立ち寄っただけ。

▼アルベルゲの受付はまだのようで、順番待ちの人がズラリ。午後の1時半でこうだから、今日は泊まれない人も出そうだ。なお、受付開始時間はアルベルゲによってまちまち。午前中から開いているところもあれば、夕方にならないとオープンしないアルベルゲもあるようだ。ガイドブックでの確認が欠かせない。

 泊まろうと思っているオスタルの場所は、昨日のうちにネットで確認。ただ、プリンターがないので、パソコン画面の地図をデジカメ撮影したものだ。
 まあ、ないよりはましで、最後にちょっと迷っただけ。アイスクリーム屋のお姉さんにたずねたら、目と鼻の先だった。

 やれやれ、今日はこれで終わりだ。
 開いている玄関から入る。ところが、入った先には何もなく、部屋がいくつかと2階へ続く階段があるだけで、静まりかえっている。フロントは2階? 上がってみたが、そこは普通のアパートのようで、部屋が並んでいるだけ。

 どうなってるんだ? 一度、外に出てみるが、建物には間違いなくガイドブックに出ていた「Hostal la Numantina」の看板がかかっている。
 先日のペンシオンの経験だと、大家は別のところに住み、電話連絡という手段だったが、ここもそうなのか。到着した旨を電話すると、部屋の鍵を持った大家が来てくれる?

 携帯もなし。予約もなし。進退窮まるとはこのこと。こうなったらさっきのアイスクリーム屋に行き、親切なお姉さんに聞くしかないか。

 その前にダメ元。もう一度、階段を上がって、今度は3階まで……。すると、オスタルの入り口ドアがあるではないか! ノックしてドアを開けると、ちゃんとしたフロントがあり、中年の女性がカモンの合図。よかった!

 「オーラ」と言って入っていき、「ウノ、ポルファボール」で終了。
 指を1本立て、「ウノ(1)」でOKだ。2泊したければ「ドス(2)」。深く考えることはない。

 最初は『指さし会話帳』を見せながらちゃんと読んでいたが、巡礼の格好でフロントに立てば、泊まりたいという意思は明確。話す必要もなくニコニコ笑っていればいい。極端な話、日本語で「今晩泊まりたいんだけど部屋は空いてる?」と言っても、用件は通じそうだ。

 パスポートを見せろと言われたので提示。クレデンシャルも一緒に出し、スタンプを押してもらう。ノープロブレム。ルームキーとテレビのリモコンを渡された。
 テレビのリモコンというのがなんともいえないな。部屋に置いておくとなくなるんだろうか。

 部屋は小じんまりしたシングル。ベッドのすぐそばが開き戸で、小さなベランダに出られる。そこに立つと、通りをへだてた向かいの家は、手を伸ばせば届くほど。そしてベッドに寝転がると、向かいの家の屋根と青空が見える。
 いいなあ~。こんな部屋ならしばらく住んでみたい。スペインの庶民の住居だよ。通りの向こうに山が見える。

▼ベッドが置かれただけのシンプルな部屋。バス・トイレは左側の壁の隣りにあった。一泊36ユーロ。

▼ベランダから見たログローニョの街。シエスタの時間なので人通りはほとんどない。静かなものだ。

 ここまで7日間歩いてわかったのは、巡礼旅の基本となる「食う・寝る・歩く」に関しては、言葉がわからなくてもやっていけるということだ。

 どういうことかというと、おなかがすいた顔で食堂に入り、料理(あるいはメニュー)を指させば、何も言わなくてもそれが運ばれてくる。

 泊まるのも同じ。夕方、疲れた顔でホテルのフロントに立つと、部屋が空いていれば泊めてくれる。ただし、値段の交渉はあるが、メモに数字を書いてやりとりすれば、話す必要はないし、確実だ。

 歩く場合、必要なのはどう行けばいいのか、という情報。これも、地名をメモして見せれば、あっちだ、こっちだ、と指さして教えてくれる。最後に「グラシアス=ありがとう」のひと言ですむ。

 このように会話なしでも「食う・寝る・歩く」がきちんとできれば、巡礼旅は支障なく進められる。だから、スペイン語も英語もできないわたしでも、順調に歩いてこれた――ということだ。

 ただし、ひとつだけ注意したいのは「巡礼者だからそれが許される」ということ。つまり、巡礼をやっている人間、という「身分」がはっきりしているからこそ、たとえ言葉ができなくても、相手はわたしを信用し、寛容、かつ親切に扱ってくれるのだ。
 巡礼者という身分、これが旅の安全・安泰を保証する最大のものかもしれない。

 チェックイン後のルーチンワークをすませたあとは、例によって昼食&街の散策。このときは巡礼者ではなく、東洋の変なヒゲじいさんの格好になる。だから、最初は警戒していたが、このごろはそれもゆるみがち。カメラは首からぶら下げずに必ずバッグにしまう。現金は昼食代プラスα。気をつけるのはそれぐらいだ。

▼晴れていればオープンテラスほど気分のいい場所はない。人も大勢いるし、安心してくつろげる。

 旅の現金に関しては、持ち歩くのは400ユーロを上限にする。そして、それが100ユーロを割ったら、ATMで300ユーロ引き出す。ガイドブックを参考に、こんな原則を決めた。

 今日の時点ではまだ余裕があったのだが、ログローニョは人口14万の大都会だけに、歩いているとあちこちにATMが目につく。よし、覚悟を決めてここはひとつATMを試してみるか。なにせネット情報では、ATMの引き出しに関してはコワイ話ばかりなのだ。

 いわく、変なヤカラがいないか十二分に確認すべし。怪しげな人物がいたら、そこでは絶対におろさないこと。ひったくりかもしれない。
 いわく、機械にカードが飲みこまれ、出てこないことがある。何があっても対処できるように、平日に銀行のATMでおろすこと。
 いわく、カードが認識されないことがある。必ず予備のカードを持っていくこと。

 今日は平日で、銀行のATMも見つけた。
 そのためにつくった国際キャッシュカードを手に、右よし、左よし、後ろよし。おそるおそる操作。結果は、日本でやってきたネットのシミュレーションが役に立ち、ほぼ迷うことなくやれた。無事に300ユーロをゲット。たかだか3万円をおろすのに、これほど緊張するとは。

 いい気分で部屋に戻り、しばし休憩。
 夕方、通りを見下ろすと大勢の人が集まっている。夕食のついでにちょっと見てみるか。

▼昼間の静けさとはうってかわり、通りには人があふれている。ログローニョの街はあさって21日からブドウの収穫祭が始まるという。1週間も続く盛大なお祭りだというから、早くも前夜祭なのかな。

▼街はお祭り気分いっぱい。台に並べられた3つのさらし首。そいつが時々カッと目を開き、奇声をあげるものだから子供たちがキャーキャー騒いでいる。女の子はさらし首の正体を見きわめようと後ろから観察中?

▼バルのカウンターには大皿料理が所狭しと並んでいる。さて、夕食は何にしようか。

 バルの大皿料理をチョイスして夕食を食べ、カフェでお茶を飲み、あっちをフラフラ、こっちをフラフラしつつ、スペインの夜はふけていく。

 部屋に戻って10時に就寝。そういえば、今日はスペインで初めてのバスタブだった。パンプローナの5つ星ホテルにもバスタブはなかったのだ。湯船に全身をひたすのは久しぶり。寝る前にも入った。いい気分。


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     ◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ