▲小高い丘をおおいつくすような家並から、天空の集落ともいわれるシラウキ。
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天空の集落を通りローマ時代の道を歩く
【9日目12年9月17日(月)晴れPuente la ReinaEstella22km/累計113.7km】

 ホテルの朝食が7時半からだったので出発は8時。いつもより1時間遅い。
 朝食はカフェテリア形式で、好きなものを食べる。といっても、パン・飲み物・果物のみ。5ユーロ=500円だとこんなもんか。

 昨日、アルベルゲで断られたスタンプは、このホテルで押してもらった。巡礼路沿いのホテルなら、スタンプはどこでも押してくれるようだ。

 ホテルを出ると外は明るくなっている。いつもは真っ暗なのが常だが、1時間遅いともうヘッドランプはいらない。

▼宿泊したホテルを出発。小さいけど感じのいいホテルだった。

 プエンテ・ラ・レイナの町を出て30分も歩くと、舗装道路はなくなり土の道になる。急な坂もあり、息がはずむ。
 その急坂で、後ろから声をかけられた。息を切らしたおばさんが何か言っている。言葉じゃなく彼女のゼスチャーで推察するに、どうやら、わたしのリュックが右に傾いている、と教えてくれているようだ。

 「サンキュー、サンキュー!」
 なんとも親切なおばさんだ。リュックはこの巡礼のために新調したので、まだ使いこなしていない。ストラップを調節しなおして「OK!」の声をもらう。

 こんな小さな親切で疲れが吹き飛ぶ。急坂を上りきり、しばらく歩いて9時30分、シラウキに到着。ガイドブックにあるとおり、遠くから見るとシラウキはまさに天空集落だ。

▼丘の上の村シラウキが見えてきた。小高い丘全体に古い家並が広がっている。

▼村の入り口。両手にストックだけを持った巡礼者が歩いていた。なんともうらやましい限り!

 シラウキ村の雑貨店で休憩。みんなここで休んでいる。買い物をして9時45分出発。15分ほど歩いて、車がビュンビュン行きかう州道NA1110の歩道橋を渡る。久しぶりに見る近代的な道路が妙に新鮮だった。

▼見慣れた光景であるはずなのに、農道ばかり歩いてきた身にはなんだかなつかしい気がした。

 ガイドブックによれば、州道を横切った先には、2000年前のローマ時代に敷かれた石畳の道が残されていると書かれていた。
 これは楽しみだ。ローマ人が歩いたそのままの道を歩けるなんて、めったにあることじゃない。石畳だというから、2000年間の人の歩みで、どのくらいすり減っているのだろう?

▼これがローマ時代の石畳の道……だと思う。
 200mしか残っていないというので、慎重に歩いていく。だが、それらしい石畳は現れない。案内標識も見当たらないし、結局、わたしの独断で決めたローマ時代の道が右の写真だ。

 日本の熊野古道を歩いたときも石畳の道はたくさんあった。それに比べれば、この道はかなりしょぼい。もしかしたら違うのかも。
 ま、ほかに見当たらなかったので、とりあえずはこれにしておくとしよう。

 そこから小1時間ほど歩き、小さな橋があったので小休止。雑貨屋で買ったぶどうジュースを飲もうとして、ウッと吐きだす。
 なんだ、これは?

 ジュースのボトルをよくよく見て、雑貨屋のおばさんや居合わせた客のおじさんの言っていた意味がようやくわかった。
 ぶどうジュースだろうと思って買ったボトルが、じつはドレッシングだったのだ。彼らは、飲み物じゃないよ、サラダにかけるものだよ、それでもいいのか、と注意してくれていたのだが、わたしにはまったく理解できなかったのだ。

▼小休止をした石橋。ぶどうジュースならぬドレッシングは、いずれ使うことがあるかもしれず、持っていくことも考えたが、1グラムでも荷物を軽くしたいわたしは、悪いと知りつつ中身を川の流れに……。

 またやっちまったぜ。
 だけど、こればっかりはしかたがない。すべて自分の責任だ。言葉なんてなんとかなるよ。そんな甘い考えで旅に出た自分が悪いのだから。もう笑ってすますしかないよ。

 エステージャのアルベルゲに到着したのは14時30分。クレデンシャルとパスポートを出し、6ユーロをはらって受付終了。部屋は2階でベッドは自由と言われ、行ってみると、一部屋に2段ベッドが8つあり、ベッドの下段はすべてふさがっていた。

 歳のせいで夜間頻尿に悩まされているわたしは、トイレにいちばん近いベッドの上段を確保(夜には全部埋まったが、この時点では上段はほぼあいていた)。

▼2段ベッドの上段しかあいていなかった。このアルベルゲでは、受付のときに使い捨てのベッドカバーと枕カバーを渡された。自分でセットし、翌朝は片づけてゴミ箱に捨てる。

 このアルベルゲは先着順のベッド確保だったが、指定された部屋以外にいくつか部屋があり、まったく空き状態のところもあった。早い者順なら、そこに行きたかったのだが、管理するほうとしてはそうもいかないのだろう。ある部屋が満員になった時点で、次の部屋を割り当てるシステムのようだ。

 このようにアルベルゲの運営は千差万別だ。先着順じゃないの、と主張しても始まらない。相手の言うとおり、ハイハイと従うだけ。

 例によって、シャワー・洗濯。物干し場は1階にあり、干せるだけのスペースがまだ残っていた。遅く到着すると、なくなってしまうこともありそうだ。

 時計を見るとまだ3時半。ベッドに横になり、しばしの休息。部屋は静かで、開け放った窓から風が入ってくる。気持ちがいい。シエスタの意味がわかるよ。今は極楽だな。

 5時すぎから散歩兼夕食。夕食はアルベルゲのそばのバルで簡単にすませた。ほとんどの人は外食だと思うが、自炊する人も見かける。

▼食事をしたり仲間とだべったりする共用スペース。ベッド室は狭すぎるので、わたしは日記を書いたり荷物をまとめたりするのは、こうした共用のスペースを使うことにしている。このアルベルゲには自炊もできる本格的なキッチンスペースもあった。

 アルベルゲの夜はいろんな意味で格別だった。これが一般的なアルベルゲなのだろう。
 前に泊まった初めてのアルベルゲは、大きな修道院の建物を改装したものなので、少し特殊だったようだ。

 ベッドに横になっても外が騒がしく、なかなか眠れない。窓の外の声高な話し声は、宿泊者だけではなく近所の人も路上に集まってだべっているようで、消灯の10時を過ぎても笑いさんざめく声は続いた。

 最初は嫌だなと思った。が、そのうち、これもまたいいんじゃないの、という気持ちもわいてくる。これまでだったらイライラがつのり、とても平静な気持ちでいることはできなかっただろう。なぜなのか……。

 消灯の10時直前にやってきた女性がいた。こんな遅い時間にはた迷惑な、と思って見ていたのだが、リュックをおろしたと思ったら、あっという間にベッドメーキングから荷物の整理、シャワーの用意をすませ、サッと消えた。
 そのうち、スッと帰ってきた彼女は、軽やかに2段ベッドの上にのぼり、シェラフにもぐりこんで寝てしまった。

 その手際のよさにはびっくり仰天だ。いやはや、まさに旅の達人。わたしもああなりたい。わたしと同じように一眼レフを持っていたが、どんな女性なのか、昼間会ってみたいものだ。

 窓の外のさんざめきを聞くともなく聞きながら……ふと気づくと、いびきの爆音、ベッドがきしむ音、だれかのせき、さまざまな音が室内に満ちていた。
 少し眠ったようだ。意識をなくしている間、自分もそんな音を出していたのだろう。それもまた、よきかな、よきかな。


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     ◆聖地巡礼:カミーノ・デ・サンティアゴ