青 爺 残日録 ペースメーカーの憂鬱 【034】
期外収縮の再来


034 2017.01.18

 今日は朝食のあとから、なんだかおかしい。胸が落ち着かない。トイレに行ったとき、なんとなく脈を測ってみたら、

 「ドク―ドク―ドク―ドク―ドク―ドク――――」

 のように、「」の部分で打たれるべき脈が打たれず、テンポが乱れる。
 「ドク」を打ったあと、次の「ドク」がくると思って数えようとすると、「ほんのちょい」間があく。なんだ? と思った瞬間、次の「ドク」が打たれる。

 思わずズッコケ、数えていた脈拍数がわからなくなる。
 そして、「ほんのちょいの間」のとき、一瞬、「ヘンな気分」を感じるのだ。

 この「ヘンな気分」を言葉で言うのはむずかしい。
 1秒の何分の1というような短い時間、フッと意識が遠のく。
 あるいは、のどの奥のほうの胸がフッと焦れる。不安を覚える、といってもいい。

 いずれにせよ、「ヘンな気分」のとき、拍動に「ほんのちょい間があく」のは間違いない。つまり、脈を打つべきタイミングの時に脈を打たない。そう感じる。

 脈が飛ぶ、脈がとぎれる、といわれる現象だ。

 以前、壁打ちのときに感じた「脈がとだえる」のと同じ現象(第17回参照)。
 そのときは自覚はなかった。脈を測っていて、初めて「間があく・脈が飛ぶ」のがわかった。だが今回は、「ヘンな気分」という自覚があり、それを感じたときは、脈がとだえていることがわかったのだ。

 ということで、この異常事態にパニクり、病院に電話した。

 担当のY先生は午後からの診療ということで、直接、話はできないとのこと。そこで看護師に状態を説明。病院に行ったほうがいいのか、様子見でもかまわないのか、そこのところを聞くと、わたしではわかりかねるので、先生に聞いてみます、と言う。

 なんだ、先生と連絡がつくんじゃないか。なら、話させて……と言う間もなく、電話が保留になる。

 しばらく待っていると、Y先生に連絡した看護師が、
 「期外収縮だから、問題ない。来院するまでのことはない」
 という先生の返事を伝えてくれた。

 なぜ、期外収縮が起きるのか、放っておくとどうなるのか。
 詳しいことを聞いても看護師にはわからない。あきらめた。自分で調べるしかないのか、まったく。


 さて、いろいろ調べてみてわかってきた期外収縮についてだ。その定義は。

規則正しく秒針のようにうっていた脈が一瞬途切れる、こうした脈がとぶ不整脈のことを期外収縮といいます。脈がふつうのリズムよりも早く出現するため早期収縮と呼ぶこともあります。もっとも一般的にみられる不整脈の一つです(*1)

 期外収縮を初めて体験したとき、この「脈が飛ぶ」というのがコワかった。脈が飛ぶ=心臓が止まっている、と思ったからだ。

▲洞結節から発生する正常な刺激伝導系。*2 
 しかし、そんなことはなかった。
 心臓が止まっているように感じたのは、皮膚の表面で脈拍を測っても、期外収縮の拍動は指先では感知できないほど弱いからだった。

 こんな弱い拍動しか起こさない期外収縮は、当然のことながら正常な電気刺激によるものではない。
 正常な電気刺激は、洞結節という“発電所“から送られてくる(左図 *2)。

 一方、期外収縮を起こす電気刺激は、本来なら電気が発生するはずのないところで起こったものだ。下に引用した図解を見ればよくわかるだろう。

 「心房から出てくる期外収縮を心房性期外収縮、心房の下の心室から出てくるものを心室性期外収縮といいます」(*3)

 と解説されているように、本来の“発電所“である洞結節の正常周期とは無関係に、まったく違う場所から電気が発生するのだ。
 そうした周期外の電気刺激による収縮。だから期外収縮というわけだ。

        ▲心房性期外収縮 *3           ▲心室性期外収縮 *3

 問題は、こうした期外収縮が身体にどんな障害を起こすかだ。

 一般的には、それほどコワがることはないという。
 期外収縮は「30歳を超えるとほぼすべての人に認められる」ようになり、「歳をとるにつれて増加する不整脈」とされる。
 医者によっては「心臓のしゃっくり」と表現する人もいるぐらいだ。

期外収縮は病気でなくても起こることがあり、自覚症状が無いだけで多くの人に発生している可能性がある。期外収縮自体は放っておいてもよい不整脈であるが、続けて生じるようであれば、心房細動や上室性頻拍、心室性頻拍や心室細動に移行する恐れがあるので治療が必要になる(*4)

 「心臓のしゃっくり」ならいいが、期外収縮で問題なのは、「続けて生じるようであれば、心房細動や上室性頻拍、心室性頻拍や心室細動に移行する恐れがある」ということ。

 もしも期外収縮が心室細動にまで移行したら、突然死を招く致死性の不整脈になる。そう簡単に「心臓のしゃっくり」で片づけるわけにはいかない。

 わたしの期外収縮は、心室細動に移行する可能性があるやなしや?

 それともうひとつ、普通の人には問題ない期外収縮でも、ペースメーカーにはその電気刺激が感知されるかもしれないこと。いわゆる「ノイズ」問題だ。
 
 簡単な話、その電気刺激=期外収縮を、ペースメーカーが正規の自己心拍と誤認識してしまったら、どうなるだろう。本来ならペーシングしなければならないのに、自己心拍があると判断して抑制してしまう。つまり心臓を動かさない。

 ま、そのあたりは、ペースメーカー手帳の読み方で勉強したように、賢いペースメーカーなので万全の備えをしている(第027回第028回参照)。
 Y先生が心配ない、というのも、そのあたりが手当てされているからだろう。

 今回体験した期外収縮では、ペースメーカーを植込んだにもかかわらず、心臓がときどき止まる、とうろたえ、パニックになった。が、調べてみると命にかかわることはなさそうだとわかり、ホッとしている。

 とはいえ、わたしの心臓に、房室ブロック以外に期外収縮もあるとは、これまで病院で言われたことがなかった。その点の確認は必要だな。

 もうひとつ、期外収縮を調べているとき、意外な情報を見つけた。手術以降、服用しはじめたメインテート錠に、期外収縮を抑える薬効もあるというのだ。

 ということは――
 前回の「033・メインテート錠の減量」で書いたように、それまで飲んでいた2.5mgを半分の1.25mgに減らした。そのことで、期外収縮を抑える効果が弱まり、頻繫に起こるようになったのでは?

 薬を減量してから今日で9日目。うーん、ありえるなあ。
 どうしたもんか……。先生に聞いてみたいが、病院に来るには及ばずと言うのだから、次回診察の3月まで様子見でいくしかないだろうな。 【034・期外収縮の再来 了】


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