青 爺 残日録 ペースメーカーの憂鬱 【035】
期外収縮と自動能


035 2017.01.23

 期外収縮について肝心のことを忘れていた。まったく、忘れっぽくてどげんもならん。記憶に残っているうちに追加データを記しておく。

 肝心のこと、それは、なぜ、心臓のあちこちで電気が発生するのか、という疑問だ。心臓の発電所たる洞結節だけから正常周期で電気信号が発信されていれば、期外収縮は起きない。

 その疑問を解くには、心臓を形づくっている筋肉の特別な機能を知る必要がある。

 心臓は筋肉でできた臓器だ。そして、心筋と呼ばれるその筋肉には、思いもよらぬ力が秘められていた。

 秘められた力とは何か。それは「周期的に電気信号を発生する能力」だ。これを「自動能」という。いってみれば「生体ペースメーカー能力」だな。

 ということは、心筋はほかの筋肉のように脳の指令で動いているのではない。自分で電気信号を発生し、その電気刺激で自身を動かしているのだった。

 ただし、ひと口に心筋といっても、2つの種類がある。
 ひとつは、心臓のポンプ機能を担う「作業心筋(固有心筋)」、もうひとつは作業心筋を管理・調整する「特殊心筋」だ。

 生体ペースメーカー能力があるのは、特殊心筋のほう。そして、この特殊心筋は「刺激伝導系」を構成している(刺激伝導系については第20回を参照)。
   ▲洞結節から始まる心臓の刺激伝導系。 *1   

 これまで、刺激伝導系の始点にある洞結節が発電所だと言ってきた。

 正確には、洞結節の自動能で電気信号がつくられ、伝導系を通じて送られていく。それにより、心臓全体が順序よく刺激され、収縮・拡張のポンプ機能が発揮される、ということだ。

 これが「洞調律」と呼ばれる正常な刺激伝導(*1)。では、もしも洞結節が故障して電気が送られなくなったら? 心臓は止まってしまうのか?

 親分がダメになったら子分の出番。親分と同じ自動能を持った子分、つまり刺激伝導系の下位中枢が自動能を発揮し、代役を務めるのだ。

 洞結節がダウンしたら、房室結節やヒス束が、それも障害されたら脚やプルキンエ繊維と、心臓を止めないために下位の特殊心筋が懸命に働いてくれる。
 こうした働きは、先に述べた「洞調律」に対し、「補充調律」といわれる。

 ただし、急場しのぎの代役なので、洞結節と同じ性能で働くことはできない。刺激伝導系の下位にいくほど、自動能が弱く不安定になり、電気信号の発生回数(=心臓の収縮回数)が少なくなる。

具体的には、洞結節は1分間に50~150回、房室接合部(房室結節・ヒス束)は40~60回、脚・プルキンエ線維は30~60回の頻度で、周期的に発生する自動能をもっています(図16)。この頻度は、そのときの状況で変わりますから固定されたものではありません。(*2)

図16 自動能



 このように、心筋に備わった下位の自動能が、バックアップに専念してくれれば、いうことはない。

 ところが、困ったことに、ときとして自動能が暴走することがある。医学的には「自動能亢進」というそうだが、必要もないのに、勝手に電気信号を発生させてしまうのだ。その結果、期外の収縮が起きてしまう。

 まとめると、期外収縮は、自動能を持った特殊心筋が、なんらかの原因でその能力を異常に亢進させ、突発的に電気信号を発生するために生じる収縮、ということになる。

 これで一件落着となれば、わたしとしても疑問が解けて嬉しい。しかし、そうはいかなかった。というのも、こうした暴走現象をつきつめていくと、心筋細胞の「電気的不安定性」にまで行きついてしまうからだ。

 そして、この「電気的不安定性」が、「基本的に自動能をもたない心室や心房の細胞も、ちょっと異常になれば自動的に興奮する場合があります」(*3)という具合に、期外収縮を生みだしてしまうという。

 こうなると、「期外収縮は自動能を持った特殊心筋の暴走によるもの」という単純な図式だけでは、その一面しか説明できなくなる。

 疑問解消にはさらに幅広い知見が必要だ。とくに細胞レベルの電気的作用がポイントになりそうだが、老骨が理解するにはとにかく時間がかかる。なので、そいつはしばらく保留にしておきたい。


 ともあれ、心臓にとって自動能は必要不可欠の機能。また、細胞の安定した電気的作用も刺激伝導には欠かせない。だが、そうした機能のために、期外収縮という不整脈を背負うことにもなる。まさに、どげんもならん。そのことはよくわかった。

 それにしても、なぜ、自動能が暴走したり、電気的作用が不安定になってしまうのか。ネットの医学情報を検索すると、さまざまな誘因が指摘されている。

 1)疲労、睡眠不足、精神的ストレス、肉体的ストレス
 2)飲酒、コーヒー(カフェイン)、喫煙
 3)加齢
 4)心筋梗塞、心筋症、心不全、心臓弁膜症、電解質異常、高血圧、慢性肺疾患、内
   分泌疾患、先天的な心疾患
 5)原因不明

 1、2や3が誘因になるのは、「心臓のしゃっくり」的な期外収縮だろう。それほど心配することはないと思う。
 けれど、4にあげられた疾患が原因の期外収縮になると、最悪、心室細動に至るケースもあるのだ。

 心配性のわたしが、たかが期外収縮、されど期外収縮と騒ぐのは、わたしの2度房室ブロックは、心不全であることに間違いない病気だからだ。

 疾患が原因の期外収縮は用心するに越したことはない。
 そこで、来月の診察時に、先生に聞くべきことをメモしておいた。期外収縮の診断は「質が大切」ということで、こんな質的診断項目を見つけたのだ(*4)。

 1.ショートランがないか➜ YES  NO
 2.2連発や3連発が起こっていないか➜ YES  NO
 3.心室頻拍や心室内固有調律が出ていないか➜ YES  NO
 4.R on Tになっていないか?➜ YES  NO
 5.多源性の期外収縮になっていないか? ➜YES  NO

 すべての質問に「NO」が返ってくれば、安心して暮らせるというものだ。
 あと、わたしの期外収縮は、

 6.心房細動や上室性頻拍、心室性頻拍や心室細動に移行する恐れがあるか
    ➜ ある  ない
 7.医原性(医療行為に伴う副作用)の可能性は?➜ ある  ない

 ということもぜひ聞いておきたい。とくに6の質問は最重要事項だな。

 あ、忘れるところだった。最後に「Lown分類」のグレードも聞いておくこと。
 「Lown分類」とは、期外収縮を重症度別に分類したものだ。(*5)

Grade 期外収縮の性質や特徴
期外収縮なし
散発性の心室性期外収縮 (1時間に30発未満)
頻発性の心室性期外収縮(1分間に1発以上 or 1時間に30発以上)
多源性の心室性期外収縮(2種類以上の異なる波形の期外収縮)
4a 2連発する心室性期外収縮
4b 3連発以上、連発する心室性期外収縮
R on T型の心室性期外収縮(T波に期外収縮が重なる)

 一般的には、3以上のグレードは重症度が高いと判断される。
 また、4aや4bは「ショートラン」と呼び、心室頻拍のような致死性不整脈を誘発する危険性がある。
 さらに、5の「R on T」型は、心室細動という最悪の致死性不整脈を誘発する危険性がある。

 以上が確認事項だ。
 「心臓のしゃっくりだよ、ハハハ」
 で終わってくれるといいのだが。               【035・期外収縮と自動能 了】


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