青 爺 残日録 ペースメーカーの憂鬱 【037】
MRI検査ができない


037 2017.06.30

 今日は「ペースメーカー記念日」だ。
 1年前のこの日、ペースメーカーの植込み手術をした。
 なんだかんだいろいろあったが、ともあれ1年が過ぎた。

 一時は、これからどうなるんだろう、と気落ちしたこともあった。馬齢を重ねれば、そういう事態も増えようというもの。やまない雨はない、と、耐えるしかない。

 とはいえ、ペースメーカーが原因ならまだしも、にっくきあの脳梗塞が引き起こした騒動にはマイリマシタ。

 その詳細は、別カテゴリの「脳梗塞よれよれ日記」を参照していただくとして、記念日に当たり、「ペースメーカー+脳梗塞」という二重苦に見舞われてわかった「残念なこと」を、忘れないうちに記しておきたい。

 残念なことは2つある。
 その1:MRI対応のペースメーカーなのに、MRIが撮れなかったこと。

 なぜ、そんなバカなことが起きてしまったのか。
 結論を先に言っておくと、ペースメーカーはMRI対応なのに、病院側が対応していなかったためだ。

 ペースメーカーを植込んでいる患者にMRI検査を行うには、

 「ペースメーカーの製造販売会社(わたしの場合はセント・ジュード・メディカル社)が行う研修を修了し、認定病院として施設登録されていること」

 が必要なのだ。
 しかし、わたしが救急車で運び込まれたK病院は、退院後にわかったのだが、セント・ジュード・メディカル社の認定病院になるための登録申請をしていなかった。

 したがって、MRI対応のペースメーカーであっても、認定登録をしていない病院なので、MRI検査はできない。

 それを知ったとき、思わずのけぞってしまった。
 え~っ、そんなこと、聞いてないよ!
 どげんもなら~ん! 

 MRI対応の最新式ペースメーカーだから安心、なんて思っていたわたしがバカだった。まさに無知の涙なり。

 そんな病院に運び込まれたのは「運がなかった」とあきらめるしかないのだろう。救急隊員に「MRI検査ができる病院にお願いします」と注文をつけるなんて考えもしなかったもの。

 さて、ここで、さらに残念だと思うのは、

 「当院はセント・ジュード・メディカル社の認定病院登録をしていないので、MRI対応のペースメーカーであっても、MRIの検査撮影はできません」

 という事実を、緊急入院したK病院のだれからも言われなかったことだ。

 入院翌日、脳神経内科の担当医師から言われたのは、
 「当院で扱えないペースメーカーを植込んでいるので、MRIを撮るのに2、3週間かかります
 という内容だった。

 緊急入院時に、ペースメーカーを植込んでいることを話し、病院には「ペースメーカー手帳」を渡してある。

 手帳を見れば、わたしのペースメーカーがセント・ジュード・メディカル社製であり、病院登録をしていないK病院では、MRI撮影ができないことは、脳神経内科医ならすぐにわかったはずだ。

 それなのに、
 「MRI撮影は2、3週間後になる」と説明し、
 「MRI撮影はできない」とは言わなかった。

 もし、正直に「認定病院ではないので撮影できない」と言われれば、そんな制度があるなんてまったく知らなかったわたしとしては、じっくり考え、
 「じゃあ、撮影できる病院に転院します」
 という選択をしただろうと思う。

 K病院には17日間も入院し、5回のCT検査を受けても、異常は見つからなかった。結局、診断は「一過性脳虚血発作」だと言われた。

 本当に「一過性」の「脳の虚血発作」だったら、まだいい。
 しかし、K病院を退院したあと、ペースメーカー手術をしたT病院で受けたMRI検査で、ラクナ梗塞が発見されたのだ。

 一過性の発作どころではない。れっきとした脳梗塞であり、誤診もいいところだ。いったいどう責任をとってくれるんだ~と叫びたい。

 ラクナ梗塞自体は、幸いなことに非常に軽く、救急車が病院に着いたころにはおさまっており、入院中はいつもと変わらない状態だった。

 どげんもならんのは、CT検査の放射線被爆だよ。
 まったく役に立たなかったCT検査で、甚大な量の放射線を浴びてしまった。

 1回のCT検査で、レントゲン撮影100回分の放射線を浴びる、と言われる。
 まあ、これは俗説。でも、かなりの量の放射線被爆はしている。

 
 起きてしまったことはしかたがない。
 そう思いたいのだけれど……。

 1年前、ペースメーカーの植込み手術をしたとき、術前のインフォームドコンセントで、担当のY先生から「MRI対応のペースメーカーです」と言われ、これならいつでもMRI検査ができる、とすっかり安心してしまったわたしも浅はかだった。

 まさか、認定病院という制度があり、MRI検査は認定を受けた病院でしか受けられないなんて、ああ……思いおこすだにクヤシイ。
 
 ペースメーカーの手術をしたY先生が、ひと言「MRI対応のペースメーカーといっても、認定病院でなければMRI検査は受けられませんからね」と言っていただければ、と思ったりもするのだ。

 以上が、残念なことその1の顛末で、残念なことその2は、
 ペースメーカーの機種について、まったく検討しなかったこと。

 わたしが植込んだセント・ジュード・メディカル社製のペースメーカーは、診療明細書で確認してみると、12万2082点(リード2本込み)だ。診療報酬の1点は10円なので、定価122万820円となる(「第009回 手術費用」を参照のこと)。

 普通の生活で122万の電化製品を買うときは、各メーカーから候補商品を選び、性能や値段などを比較検討しながら、カタログをあさり、売り場で現物を確かめ、すったもんだの末に決める。

 だが、ペースメーカーを植込むにあたって、わたしの念頭にはどんなペースメーカーを選ぶかなど、まったくなかった。

 今考えるとじつに不思議なのだが、ペースメーカーを製造するいくつかの会社があり、それぞれに特徴も違う。であれば、どの会社のどんな機種がいいのか、素人なりに検討してもいいはずだ。

 もちろん、特殊な機器なので、専門家=医師の見解に従うことになるだろうが、それでも、電気製品なら、とりあえずは「いちばん売れているもの」を選んでおけば、おおはずれはない――というのがわたしの考えなので、日本でのトップシェアのペースメーカーを軸に検討することぐらいはやってもよかった。

 これは、後の祭りのグチだ。言っても詮無き事だけど、調べてみると、わたしが救急車で運び込まれたK病院では、ペースメーカー販売実績では日本トップの「メドトロニック社」の病院認定は取得していた。

 もし、わたしがメドトロニック社のMRI対応ペースメーカーを使っていたら、入院当日にMRI検査を受け、即、ラクナ梗塞という診断がくだったはず。そして治療方針も早々に決まり、17日間も入院することなく、1週間もあれば退院できただろう。わたしの症状では、治療は「薬を飲む」ことぐらいしかなかったのだから。

 ともあれ、K病院が、なぜ、あんな対応をしたのか、いまだに解せない。
 あの鬱々とした日々を思いだすと、記念日だからといってまったく祝う気にもなれない。まさに、どげんもなら~ん……             【037・MRI検査ができない 了】



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