ペースメーカーの憂鬱 【031】 テニスの練習再開 |
031 ♥ 2016.12.01 手術後3か月目から軽いウォーキングを始めた。 それから2か月たち、体もペースメーカーになじんできた。走っても違和感はまったく感じない。脚力は、手術前より高くなった気さえする。 だが、テニスはなかなか再開する気にならない。 フォア、バックとも両手で打っているわたしの変則スタイルでは、右腕同様、左腕も激しく動かす。それを続ければ、リードが外れたり(脱落=ディスロッジ)、最悪、断線という可能性だってある。 だから、「どげんもならんよなあ~~」と、気持ちがのらないのだ。 主治医からは、術後3か月過ぎればリードも固定するし、テニスはできますよ、と言われている。だけど、テニスをやったことのない先生には、その激しさがわからないだろうから、どこまで真に受けていいものやら。 テニスをやってて断線したからといって、「先生、話が違うじゃないですか、どう責任をとってくれるんですか」なんて言えるわけがない。結局は自分でケリをつけるしかない。 やりたい気持ちは日ごとつのってくるが、一方で、やめといたほうがいいよ、と押しとどめる自分もいる。 やるべきかやらざるべきか。 何事もスパッと決められないわたしは、悩んだあげく、手術から5か月過ぎた時点でようやく決断した。 テニスをあきらめる気持ちにはどうしてもなれない。 ならば、この際、慣れ親しんできた両手打ちを、あきらめよう。 そして、シングルハンドに変え、心機一転、右腕一本でテニスをやり直す。 もちろん、左腕を使わないからといって、ペースメーカーへの負荷、とくにリードへの負荷がなくなるわけではない。右腕一本でやっているように見えても、テニスでは左腕の補助的な動きが欠かせないのだ。 それは承知のうえで、ここはひとつ、賭けてみるしかないな。
彼女が持つ天秤に、テニスを「やる」と「やらない」を載せてみたら、はたしてどちらに傾くだろうか? 審判の天秤はこんな使い方はしないけれど、気持ちがぐらついていると、ついそんなことを頭に浮かべてしまう。 だけど、わたしの気持ちの中では、天秤はもう「やる」ほうに傾いているのだ。ここは自分の気持ちに従って、やってみるしかないじゃないか。 5か月ぶりに練習を再開しよう。 ところで、この結論に至るまで、ネット検索で多くの情報を集めた。いろんなサイトでいろんな意見が飛び交っている。 読んでみた感想は、総じて「主観」ということ。 やっていい、やっちゃダメ、両者とも、なぜいいと言えるのか、なぜ悪いと言えるのか、裏付けになるデータ(エビデンス)を提示していない。 ――知人がテニス中にリードを断線した。だから、やめといたほうがいい。 やはりそんなことがあるんですね。で、手術後どれぐらいたってますか? 断線したときの詳しい状況は? どのぐらいの力がどういうふうにかかったから、断線したんですか? それは、答えを求めるほうがむり。正確なことはわからない。ましてや医学的な統計など存在しない。そういう事実があった、というだけの話だ。 同じことは運動OK論にも言える。 セント・ジュード・メディカル社の「患者様の体験談」コーナ(*1)には、ペースメーカー植込み者には勇気百倍、やればできるじゃないか、と励まされる体験談がいくつか掲載されている。 たとえば、1分間で、たった4拍の脈しかなくなって死にかけた人が、ペースメーカーを植込んだあと、それまでずっと続けてきたランナー生活に復帰。8月と10月のマラソン・トライアスロン大会で、合計315km完走と、信じられないような成果をあげている。 テニスなんか比べ物にならない過酷な鉄人レースでも、ペースメーカーランナーがちゃんと完走している。 この事実は、わたしのテニス復帰を力強くあと押ししてくれる。 ただし、この感動実話も、バックデータがまったく紹介されていない。だから、わたしにも当てはまるのかどうか、判断のしようがないのだ。 もう少し客観的なデータはないのか。そう思っていたときに見つけたのが、次のようなガイドラインだ。 「ペースメーカ、ICD、CRTを受けた患者の社会復帰・就学・就労に関するガイドライン 2013年改訂版」(*2) これは、日本循環器学会や日本心臓病学会など、10の学会が参加した合同研究班の「循環器病の診断と治療に関するガイドライン」だ。 その項目のひとつに「スポーツの影響と制限」(P26)がある。テニスに関係するものをピックアップしてみた(注:読みやすいように改行してある)。
この指摘は、だれでも理解できる常識的なもの。リードの寿命を延ばしたければ、「反復的ストレス負荷」をかけないにこしたことはない。 とはいえ、わかっちゃいるけどやめられない、の部類に入るものだから、どうにも始末が悪いのだ。
いわゆるコンタクト系のスポーツは「制限が必要」との見解は妥当だろう。わたし個人は、どうしてもやりたければ、相当の覚悟を決めるしかない、と思っている。
筋肉を動かすと筋電位が生じる。それを自己心拍による電位と誤認識するのがオーバーセンシングだ(*3)。そうなると、本当はペーシングが必要なのに、自己心拍があるものとしてペーシング抑制になってしまう。 こんなこともあるとは、夢にも思わなかった。勉強になる。 ただ、「単極電極を使用した場合」とあるから、わたしが使っている「双極電極」だと、その心配はいらない? 要確認だな。
ここではテニスが名指しで糾弾(?)されている。 テニスは「植込み後6週間までは避けるべきスポーツ」だとされる。まあ、それは術後20週を過ぎているので、現時点では当てはまらない。 ただ「上腕や肩関節を用いるスポーツでは鎖骨と肋骨の交差部分での圧迫や複合的なストレスに伴うリードの損傷が考えられる」という指摘は重要だ。 これについては以前も検討している(第007回 リードの施術方式)。そのときふれたように、施術方式が「鎖骨と肋骨の交差部分」を通る穿刺法だとわかった時点で、従来どおりのテニスをするなら、リードの損傷は覚悟するしかないと思った。 覚悟のうえで、やるか、やらないか。 どうしてもやりたいなら、リードの損傷を最小にするため、これまでのテニススタイルを変え、左腕を極力使わないようにする。 それで手を打つしかないな。 ペースメーカー装着者には、テニスはそれだけ注意が必要なスポーツなんだよ。下の「スポーツ強度分類」でも「動的成分」は高いほうだ。 テニスの「動的(等張性)成分」は、ダブルス「中等度」、シングルス「高度」に分類されている。 テニス再開に当たり、年寄りの冷や水にならぬよう、シングルスはもうやらないと決めよう。楽しいダブルスで、ペースメーカーの憂鬱を晴らせれば、上々だ。 【031・テニスの練習再開】 |
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