019 2016.09.20

 どげんもならんとはいえ、いったい私の心臓は、なぜこんなことになってしまったのか。

 医師の話だと、加齢というのが一番大きな要因のようだ。
 さもありなん。心臓は一日に10万回も、ギュッと縮んだり拡がったりしている。大変な労働量だ。それを68年もやってれば、くたびれてもくるよね。

 それからもうひとつ、じつはわたしが本命とにらんでいる要因がある。
 放射線による晩期障害だ。

 8年前、還暦の年に、わたしは食道がんを告げられた。検査の結果、遠隔転移があったため、ステージⅣという最悪のがん宣告だった。

 起死回生、一縷の望みをかけて選んだ治療法が、放射線療法だ。
 1回1.8グレイ(*1)の放射線を28回照射。総量50.4グレイの放射線を浴びた。そしてがんは消失した。

 このとき、治療法としては2つの選択肢が示された。

 ひとつが食道全摘手術。がんを根こそぎ切除する確実性により、当時の第一選択だった。がん消失率は100パーセント。

 もうひとつの選択肢である放射線治療は、手術より確実性で劣っていた。インフォームドコンセントで示されたがん消失率は70パーセント。

 数字だけを見れば手術だが、煩悶、葛藤のすえに、放射線を選んだ。
 もちろん選択時には、放射線障害について詳しい説明を受けた。

 食道の近くには肺や心臓など、重要な臓器がある。放射線を照射するとき、それらの臓器を完全に避けることはできない。どうしても食道周辺の臓器に、放射線が当たってしまうのだ。

 だから、前もって「肺炎や心不全」など、確率は低いけれど、発症する危険性があることを告げられる。そのうえで、どちらを選ぶかは患者にまかせられる。


 がんが消失したときは、やった、わたしの選択に間違いはなかった!
 狂喜乱舞したものだ。

 しかし、今になってみれば、あのときの放射線照射が心臓にダメージを与え、不整脈を招いたのでは、と心が乱れるのも事実だ。

 実際、放射線の治療が終わったあと、「放射線性肺臓炎」と診断された肺炎を発症した。だから、心不全が出現してもおかしくはないのだ。

 しかしながら、放射線治療後8年も過ぎれば、グチグチつぶやいても詮ないこと。いくら調べても、原因が特定できるわけでもない。それに、責任はすべて、それを選んだ自分にあるのだから。

 どげんもならん、とはこのこと。グダグダ言っても、らちが明くわけではない。そんなことをやっている暇があれば、もっとやるべきことがある。

 原因が加齢か放射線障害か、はっきりしなくても、わたしの心臓に障害が起きているのは間違いない。
 となれば、障害の正体をはっきり見きわめる必要があろう。

 そのためにまずやるのは、心臓ってナニ、という初歩の初歩。恥ずかしながら、これまで心臓に関心をもったこともなく、ほとんど何も知らないのだ。
 ここは軽くお勉強といきますか。                  【019・心臓と放射線障害】
*1 放射線が「人に当たった場合は人体を構成する有機物の分子構造を変化させたり壊して」しまう。この現象により、わたしの食道がんは壊され、消失した。グレイは「放射線から受けるエネルギー量を示す値」。詳しくは下記のサイト参照。
 http://www.aomori-hb.jp/ahb4_5_6_06.html

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