003 2016.06.30

 麻酔切れ(?)の一幕があったせいで、大きな疑問がわく。研修医の存在だ。今回の入院では、研修医がつくことは事前に言われていた。

 先輩医師の指導で医療技術を学ぶ研修医制度は、新米医者にとって欠くべからざるものだけに、見学・診察補助・術中処理・助手など、必要な研修を積むことに異論はない。

 しかし、だ、単なる見学や補助ではなく、執刀ということになれば、ていねいな説明と患者の了解が必要ではないのか。

 手術同意書なるものにサインをさせられたが、「手術担当はY医師」とのみ書かれている。Y医師はベテランの先生なので安心して同意書にサインした。それなのに、まさか研修医のA先生も執刀するなんて!

 手術前日のインフォームドコンセントでも、研修医が手術に加わります、という説明はなかった。
 ところが青天の霹靂、手術半ば、脳天に響く痛みが走り、「もっと速く、スパッと!」「スパッと切れば痛くないから!」と叱咤するY先生の声。

 イタイ~っ! やめてくれ~! ヘタクソ~!

 その後も何度か手伝わせているようで、心臓内部に入れたガイドラインを引き抜くとき「スッと抜いて、もっとすばやく」と言うのが聞こえたし、最後、大詰めの縫合時には、「残りの2針をぬってみて」とA研修医に託し、別の用事があるらしく、Y先生はその場を離れた(ように感じた。見えないので)。

 まかされたA研修医、なんだか悩んでいるようだ。見えないけれど困惑が手に取るように伝わってくる。いいよ、いいよ、もうメインの手術は終わったんだし、焦ることはない。ゆっくり練習して。

 本番が終わった安堵感でやさしい気持ちになったわたしは、声に出して言ってやろうと思った。だが、これも試練だ、乗り越えるのは己しかいない。患者に励まされてどうする、ガンバレ。

 わたしとしては暖かい心で見守っていたのに、戻ってきたY先生は「ここだけ盛り上がってるね。強く縛りすぎ」と鋭く指摘。ムチがピシリと入り、A研修医は「ハア」とやり直している。

 いいよ、いいよ、少しばかり傷口が盛り上がっていても。人間68歳にもなれば、見てくれはもう気にしないから。それにいつも露出する場所じゃないし。

 話がわき道に逸れてしまった。わたしが感じた研修医問題の本題はここから。
▲病室。4人部屋だった。
 まず最初に、今回の場合、わたしはベテランのY先生に手術を託した。これは、わたしと医師の間で契約が交わされたと言い換えてもいいだろう。同意書は契約書なり。

 ところが、手術の最中に、突然、何の説明もなく研修医のA先生が執刀。
 待て、待て、マテ~ッ!
 わたしは思わずちゃぶ台返しをやるところだった。そんな契約を交わした覚えはないもの。

 考えてもほしい。ベテランのY医師と研修医のA医師では、その技量に天地の差があるのは明白だ。 わたしとしては、優秀なY医師に手術をお願いした。にもかかわらず、前述した顛末なのだ。

 術前の説明で、医療技術の研鑽のため研修医に体験の場を提供してほしい、とお願いされ、患者たるわたしも納得していれば話は別だよ。

 正直なところ、そのお願いをされたとして、わたしは残念ながら今回だけはお断りしていただろう。
 心臓だよ、手術するのは。
 99・9%安全だとしても、万にひとつのことがあれば、心臓が停止するやもしれない。そうなれば、あの世で悔やんでみても遅い……。

 いちばん無念だったのは、患者としてはちゃぶ台返しが決してできないこと。ひっくり返してごらんなさいよ、メスが入り、血まみれの我が身を、自分ではどうにもできない。

 わたしがこれほど無力で弱い存在とは……。
 だけど、なんでそんな思いをしなくちゃいけないの?
 無念の思い、悔しさは怒りとなって爆発する!

 また話が逸れた。ここで問題になるのは、患者は研修医の執刀を拒否できるかどうか、ということ。
 わたしはできると思う。それは患者の権利だ。

 患者は執刀医を選ぶ権利があり、自分が選んだ医師と契約を交わし、報酬を払って手術をしてもらう。もし、契約を交わしていない医師が介入したら、それは医師側の契約違反だろう。

 契約にもとづいた医療技術の売買という観点からみるなら、上記のような主張は正当なものとして認められるのではないのか。


 しかし、手術後、痛みや悔しさでいささか逆上気味のわたしが、強く説明を求めたY医師の見解は異なるものだった。

*研修医は医師としては除外される存在であり、したがって、同意書の説明に「当日の手術担当はY医師」とだけ明記され、A医師の名前がなくても、問題ない。

*研修医はあくまで研修の一環として指導医のサポートをする者であり、そのことによって手術自体もスムーズに進み、時間短縮になる。これは患者のためにもなり、問題はない。

*手術の99%は私(Y医師)が行い、重要でミスの許されない部分はすべてカバーしている。したがって、研修医が参加していても、問題はない。

*こうした研修医の研修システムは、医療現場では当たり前のことで、まったく問題ない。そこに疑問をさしはさまれたのは初めてのこと。

 いやあ、まいりました。問題ないの連発。
 まあ、話だけ聞けばそのとおりで、わたしも問題ないと思う。

 でも、それは、あくまで「患者の了解がとれている」という前提で成り立つ話であり、事前の了承もなく、未熟な研修医がいきなり執刀したら大問題だろう。

 あげくに、疑問をさしはさまれたのは初めて、と言われてもなあ。わたしには、医学界の常識は社会の非常識、としか思えないのだが。

 手術翌日の夕方、A先生が病室にやってきた。
 このたびはすいませんでした、と言うので、なに、いちばん悪いのは麻酔が効いていなかったことだから、気にする必要はない。これからメスを入れるときは、麻酔が効いているかどうか、患者に聞いてから切ったほうがいいよ、と答えておいた。

 麻酔さえ効いていれば、スパッと切ろうがグジグジ切ろうが、患者にはわかりっこないのだから、わたしが逆上することも、強い抗議をすることもなかった。

 麻酔が効きにくいわたしの体が悪いのか……。
 あるいは麻酔の量を間違えて注射をしてしまったのか……。
 だれが悪いんでしょうねえ。

 いや、その前に、メスを用いる新人研修は、全身麻酔の患者でやってほしいなあ。

 手術当日の夜はベッド上安静。おしっこは尿瓶。左腕はなるべく動かさず、硬直した丸太のように天井を見つめて過ごす。寝られやしない。傷がうずきはじめたので鎮痛剤をもらって飲む。

 ネットの情報とは大違いで、ツライ一日だった。ペースメーカー植込み手術は、なるべくなら受けないほうがいいよ、と言いたいものの、受けなくちゃ心臓がとまっちゃうからね。そっちのほうがよりツライやね。            【003・研修医は拒否?】

Homeへ

カテゴリ 一覧へ

記事 一覧へ





サイト運営の青爺より
68歳でペースメーカーを
植込んだ隠居じ~さんが、
思いどおりにいかない暮らしに
ブツブツ・ボソボソと
憂さを晴らす枕草紙です。
どげんもなら~ん
が口癖の、どげんもならん
ペースメーカーの真実とは?









訪問者












次記事「004・運動禁止令」へ
Home
カテゴリ 一覧へ
カテゴリ【ペースメーカー手術・03】の次記事【04】へ
記事 一覧へ