002 ♥ 2016.06.30 手術なんて何年ぶりだろう。思い起こすと、遊びのテニスで足がもつれて転び、右肩を強打して鎖骨の靱帯が切れ、その移植手術をした覚えがある。 いつごろのこと? 退院後、人間ドックなどの結果を綴じこんだ「健康ファイル」を繰ってみると、2000年の3月8日、全身麻酔で「右肩鎖関節脱臼」の「観血的整復」手術をしていた。16年も昔の話だった。 前回の手術は全身麻酔だったが、今回のペースメーカー植込み手術は部分麻酔。それだけで、簡単な手術だと思い、軽く考えたのが大間違い、という話はすでにした。大間違いはほかにもたくさんあるのだが、まずは手術のときの「痛いっ!」から記しておく。 さて、手術は午後2時からの予定。手術後はしばらくおあずけだろうと、お昼前に入浴。そしてお昼ご飯を食べ、落ち着かないので早々にT字帯を着け、手術着に着がえる。 そうそう、T字帯だ。以前の鎖骨靱帯移植手術のときにも使った記憶がある。ところが、実物(病院の売店で購入)を手にすると、えっ、どうやるんだ? 形状はまさにふんどし。ひもを腰に巻きつけて結べばいいのはわかる。では、垂れた布は? 前にもってくるのか、それとも後ろ? 以前はどうしたろう? 16年も昔だ、覚えてるわけがない。
やってみる。 まず、布を体の前に垂らしてひもを腰で結ぶ。それからダランと垂れた布を、股間を通して背中側にもっていく……が、とてもやりにくい。 では逆は? 布を背中側に垂らして腰にひもを結び、股間越しに前にもってくる。 もってきた布は、お腹のひもに通すと……なんだ、簡単じゃないか。 お昼すぎにカミさん、そのあと長女も来る。 手術前、病室で点滴。 1時30分、点滴をぶら下げたスタンドをガラガラ転がしながら、2階にある手術室へ行く。車いすで行くと思っていたら、歩けるでしょ、と言われた。ウム……。 手術室の手前のドアでだいぶ待たされた。手術を終えた人が何人か手続きをして退出。ようやくわたしの番だ。ドアをあけて手術室に入る。ひんやりしている。 用意された踏み台のステップを2段上がり、手術台に腰掛ける。それから両脚を台にのせ、あお向けに寝る。 手術着の前をはだけ、胸に心電計の検出パッドが貼られる。体の上にシーツがかけられ、患部になる左胸だけが露出される。そして、計測された心拍音が、スピーカで手術室に響き渡ると前処理完了だ。 ここまででけっこう時間をくっている。手術は1時間から2時間と言われているが、早く終わりたい。 あお向けの視界のはじに執刀医のY先生の顔が見えた。いよいよだ。 「これから〇〇〇手術を始めます」と執刀医が宣言するのかと思ったら、ごく普通の調子で「麻酔ですよ。チクッとします」と言われ、チクッ、チクッ、チクッ……と、胸を数か所刺された。 テレビドラマのあの重々しくも厳粛な宣言はなんなんだ。拍子抜け。 とはいうものの、体は力みかえって、緊張がゆるむことはない。なにせ初めての心臓手術だからね、万に一つということもある。コワイことはコワイ。 手術が始まるちょっと前、顔をシーツで覆われた。視界なし。様子を知るには耳だけが頼りだ。 ときおり低い声で話しているが、内容はよくわからない。「平べったいから入っていかない」とか「下へ行っちゃう」という声が聞こえると、うまくいっていないようだと心配になる。 話の内容では、どうやらリードを心臓に挿入する作業のようだ。 「はい、OK」とか「いいよ、いいよ」という言葉が聞こえれば、不安もグッと減るのだけど、そうは問屋がおろさない。けっこう手間取っているようだ。 局所麻酔の手術は体の負担は少ないが、心の負担は大きいね。 時間もだいぶたち、様子から察するにリード挿入の山場は越えたようだ。 ひょっとしたら終わり? そうだったら嬉しいな。 しかし、突然襲った強烈な痛みが、わたしの希望を打ち砕いた。思わず「イターッ」と悲鳴を上げる。 なんだ、これは? と思う間もなく次の痛み! イタ~イ! ナンダ、ナンダ? 疑問はすぐにとけた。Y先生が、 「スパッと速く切るんだよ、痛みがないから」と言っている。 そうか、研修医のA先生が執刀しているのだ。 「もっと速く」と言うY先生の言葉で、切れない包丁でゴリゴリ魚を切る情景が目に浮かぶ。たしかにスパッと思い切りよく切ってもらったほうがいい。 お願いだ、スパッとやってくれ。 イタ~~~イ~~ッ! それにしても麻酔は? 切れてきたのか? 【002・痛いっ!】
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