青 爺 残日録 ペースメーカーの憂鬱 【027】
PM手帳を読む 6 まだある基本詳細設定


027 2016.10.20

 手帳6ページ目のつづき。
 6つ目の機能設定  「Sense Ability」 は「OFF」になっている。

 この機能は「心房・心室の自己心拍の自動感度設定」だという。感度という言葉から、前回説明した「A感度・V感度」と似たようなものではないかと思う。

 いずれにせよ、なぜOFFになっているのか気になるし、SJM社の担当T氏に聞いてみた。
 すると「Sense Ability」は、やはりA感度とV感度を補完するような機能だった。

 細かいメカニズムはわたしにはむずかしいので、不正確な部分があるかもしれないが、大ざっぱにまとめると。

 A感度とV感度は、センシングする電圧が固定されている。普通はそれでいいのだが、人(症状)によっては固定感度ではなく、状況に応じて変えたほうがいい場合がある。

 そんな人のため、状況が変われば感度も自動的に切り変わる、という機能が付けてある。それが「Sense Ability」だという。 
 どんな状況になれば、設定がどう変わるのか、説明は聞いたが理解不能。わたしのペースメーカーは今のところOFFになっているので、そのあたりはスルーしよう。

 さて、次の項目は  PVARP(275 )ms  と  PVAB(150 )ms だ。

 これは、「心室ペーシングまたは心室自己心拍の後の心房不応期。ペースメーカが不適切な作動をしないように、心房側の信号に反応しなくなる時間」と定義されている。

 まず、前提として、心室のペーシング、または心室の自己心拍があったとする。この2つは、やっていることは同じで、心室が電気刺激によって収縮する。

 この心室収縮(心内電位)が、誤って心房で感知されることがある。逆行性伝導といわれるものだ。そうなると、心室の収縮過程が完全に終了しないうちに、心房が感知したニセ信号に追従したペースメーカーが、心室をペーシングしてしまう。

 この現象が悪く働くと、心拍が次々に起こるので、いわゆる「ペースメーカー起因性頻拍(PMT)」が発生してしまうのだ。

 これを防ぐのは簡単なことで、心房での感知をやめてしまえばいい。もちろん、ある時間だけ、検出をやめる、つまり「不応期」を設けるわけだ。

 「PVARP(ピーバープと読む。post ventricular atrial refractory period)は、その不応期の時間を設定する数値で、わたしの場合は「275ms(0・275秒)に設定してある。

 「PVAB(ピーバブと読む。post ventricular atrial blanking period)も同じこと。こちらのほうは、心室が収縮するときの心内電位のうち、とくに「R波」の逆行性伝導に対する不応期設定。わたしの場合は「150ms(0.15秒)」になっている。

 こうしてみると、不応期が2つあることに気づく。じつはこの2つ、性質がちょっと違ようなのだ(*1)。
・PVAB =絶対不応期:ペースメーカーは心房感知をしない
・PVARP=相対不応期:ペースメーカーは心房感知をするが、対応する動作はしない。

 また、ネットで検索した別の資料には、次のような記述がある(*2)。
 「Post Ventricular Atrial Blanking(PVAB)とは、心室イベント後の心房側に設定される不応期であるPost Ventricular Atrial Refractory Period(PVARP)内のブランキング期間のことです。主に心室イベントによる不適切な心房感知を防止します」
 この資料では、PVARP:275msの中にPBAV:150msが含まれる、と読める。

 たぶん、その解釈のほうが正しいのだろう。ただ、どちらにしても、結果として、何もしないことは同じゃないの? なのになぜ、2つに分けたりするのか?
 わたしにはわからないので、いずれまたメーカーの担当者に聞いてみよう。


 ところで、話はちょっとそれるが、逆行性伝導がなぜ発生するのか、T氏に聞いたところ、次のようなことだった。
 心臓には心房と心室がある。それだけ聞くと、この2つを同列にとらえがちだ。しかし、働き方で比べると、心房を軽自動車にした場合、心室は大型トレーラーにたとえられる(と、イメージするとわかりやすい)。

 それも道理で、両者とも血液の循環を司るのは同じだが、心房はすぐ下の部屋の心室に血液を送ってしまえば役目終了。だが、心室は肺(右心室)、あるいは全身(左心室)に血液を送る(第020回参照)。それだけダイナミックな動きをするわけだ。

 このように心室の動きが大きいと、それが心房にまで伝わり、ペースメーカーは誤ってセンシングしてしまう。逆行性伝導はこうして発生するという。

 心房と心室の違いなど考えたこともなかったが、ふーん、豆知識だなあ。

 閑話休題。 次の項目にいこう。

  センシング不応期 心房(93 )ms  心室(250 )ms

 これは「自己の心拍を見つけたときに、一定時間見つける機能を止めること」、つまりセンシング機能をストップするということだ。

 なぜかというと、先ほども出てきたように、心臓内では時として「ニセ情報」が発生することがある。自己心拍のあとに「ニセ心拍」が発生すると、ペースメーカーは“機械“だから、それも忠実にセンシングしてしまう。

 すると、「自己心拍感知→ニセ心拍感知→自己心拍感知→ニセ心拍感知……」というようなことも起こりうる。こんな状態が続けば、ペースメーカーは心拍が異様に増えた「頻拍」という誤った判断を下すかもしれない。

 これではまずいので、自己心拍を感知した直後から、わたしの場合は、心房は93ms(0.093秒)、心室では250ms(0.25秒)、センシングを休止する(不応期)、という設定にしてあるわけだ。

 じつによくできている。感心した。
 ということで、手帳6ページ目もようやく最後の3項目になったが、つづきは次回。  【027・まだある基本詳細設定】

参考データ
*1 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10153521235
*2 http://www.m-cdr.jp/pdf/no-4.pdf   (2ページ目のA5参照)

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