青 爺 残日録 脳梗塞よれよれ日記【018】
ラクナ梗塞という十字架
◆2017年04月11日(火) 発症34日目
 昨夜から雨。朝は本格的に降っている。

 T病院・循環器内科・Y医師の診察。先週受けたMRI検査の結果を聞く。
 今日はボイスレコーダーをバッグに入れてきた。絶対に聞き漏らしはできない。生き残りをかけた話なのだから(録音については*注1参照)。

 ちょっと昔のオマジナイ。気合だ、気合だ、気合だ、と鼓舞しながら、診察室へ入る。

 先週のMRI撮影後に、脳梗塞跡が見つかったとは聞いている。それでもやはり、モニターに映っている画像を示されると、ドキドキする。
▲MRIの画像。赤丸が梗塞跡。左は拡散強調画像と呼ばれるもの。右はT2強調画像。

 さて、今日の診察では、モニターを見るだけの説明ではなく、画像の「コピー」と「所見」「診断」をまとめたレポートを渡された。A4の用紙一枚だが、たいへんありがたい。

 レポートの「所見」では、冒頭に「前回MRI(2016年6月15日)と比較した」と書きはじめている。これは、以前、T病院で撮った脳のMRI画像と見比べたということだ。そして、続く本文にはこう記してある。

 拡散強調画像で橋右側に異常信号が出現している
 ADCmapで拡散の低下が認められ、T2強調画像、FLAIR画像で淡い高信号を呈し
 ている
 急性期~亜急性期の梗塞と思われる


 と、明確に脳梗塞であることを記している。
 画像という形で現物を目にし、こういう所見を読むと、改めて、脳梗塞だったのだ、という思いが強まる。

 さらに「所見」では、脳の「橋」に異常信号、すなわち脳梗塞があると告げるのだ。橋は、下図の赤い部分で示されるように、大脳の下に位置し、延髄へとつながる部位。
▲脳内での橋の位置。橋を赤で示す。左図は側面から、右図は正面から見たとき。
By Images are generated by Life Science Databases(LSDB). - from Anatomography[1] website maintained by Life Science Databases(LSDB).You can get this image through URL below. 次のアドレスからこのファイルで使用している画像を取得できますURL., CC BY-SA 2.1 jp, Link

 さらに「所見」は、

 右小脳半球、両側放線冠から半卵円中心の lacunar 梗塞、慢性虚血性変化に関し
 ては著変なし
 検査範囲内のMRA:明らかな狭窄や閉塞、動脈瘤は指摘できない


 と結んでいる。

 ここで病名が告げられた。
 「lacunar 梗塞」である。

 続く「診断」の項目でも、「ラクナ梗塞」という病名が出ている。

 橋に急性期~亜急性期梗塞を認めます
 ラクナ梗塞、慢性虚血性変化→著効なし


 「診断」はこの2行で終わる。それで十分だ。
 わたしが3月9日に見舞われた発作は、MRI検査というエビデンスにもとづき、脳梗塞の「ラクナ梗塞」と正式に診断されたのだ。

 発症後、34日目のことである。
 あまりにも長い、長すぎる時間を経ての病名確定だった……

 思い返せば、救急車で運ばれた直後に撮ったCT画像でしか、「梗塞らしきもの」は見ていなかった。
▲左は、救急車で運ばれた3月9日にK病院で撮ったCT画像。矢印が梗塞だろうと言われた。しかし、4月3日に撮った右のMRI画像とは梗塞部位がまったく違う。CT画像は明らかに大脳である。MRIでは、そんなところに梗塞など見つかっていない。改めてK病院の検査体制や技能に大きな疑問を感じる。K病院のCT検査が果たした役割とは、いったいなんだったのだろうか。

 上の2つの画像を見比べると、左のCT画像のほうが、右のMRI画像(拡散強調画像)よりシャープだ。それなのになぜ、梗塞が発見できないのか?

 それは、CTとMRIでは得意分野が違うからだ。

 CTは、脳出血の有無がよくわかる。したがって、脳の疾患で緊急搬送されると、まず、出血か梗塞かを見きわめるため、CTを撮る。
 CTで出血が見当たらなければ、次にMRIで梗塞の有無を検査する。

 この手順は、CTやMRIが普及した今では、標準といってもいい治療法だ。
 わたしと同じ日に同じような症状で緊急入院した同室の2人も、まずCTを撮り、続いてMRIを撮ったと話していた。入院した当日のことだ。

 わたしの場合は、前にも書いたように「ペースメーカー」を植込んでいたため、その手順が狂い、例外的にMRIなしで進んでしまったのだ。

 それはさておき、話を戻すと、もともとMRIの拡散強調法による画像は、画質の悪い撮影法なのだ。にもかかわらずその撮影方式が使われるのは、「脳梗塞がはっきり白く写る」という特徴があるからだ。

 ほかの撮影法ではまったく写らなくても、脳梗塞の疑いがあれば、この拡散強調画像だけは必ず撮ること、とされているほど、脳梗塞診断には欠かせないもの。

 こうした事情は、MRI検査とはどういうものか、を調べている過程で知ったこと(*注2参照)。もっと早く知っていれば、転院してでもMRIをやったものをと悔やまれる。


 話を診断に戻し、ここからはY先生の説明をそのまま記録しておく。
 「  」が先生の説明、――がわたしの質問だ。(  )はわたしの補足。

 「急性期を診る画像だと、白い点が見られる。場所は橋。ごく小さいもので1mm程度ですかね。(この大きさでは)CTではわからない。
 梗塞の場所的に、たとえば心臓の中に血の固まりができてそれが流れて飛ぶと、角度などの問題でそこ(橋)には行かないみたいなんですよね。だから、橋で脳梗塞を起こすのは、動脈硬化によるものだろうということなんです。
 血の塊は橋の近く、ちょっと下にある脳の血管から飛んできた。頸動脈ではない」

 ――というと、アテローム性ということになりますが、最初に入院したK病院の担当医師には、心原性の可能性が高い、と診断されましたが。

 「それはさっき言ったように、心原性ならもっと大きな血栓による梗塞が起き、場所も橋では起きない。(心臓から橋まで行くには急角度に曲がらなければならず)急な角度があるところを(大きな血栓は)通過できない。アテロームのコレステロールの塊のような、小さなものしか考えにくい。
 (血液検査結果を見ながら)それに、血液検査の値を見ると、以前からコレステロール値が高いじゃないですか」

 ――ええ、それはわかっています。でも、それでは、K病院の先生はなぜ心原性などと判断したのですかね?

 「だって、MRIがなければ梗塞がこの場所だとわからないわけだし。MRIを撮らず、(CT検査だけで)普通はそんなこと(心原性という推測)は言わないけど」

 ――そうですか。 で、アテロームで脳梗塞が起きるような状態だと、動脈硬化の進み具合はどんなことが言えますか?

 「それはわかりづらい。心筋梗塞の患者を診てますけど、動脈硬化の進み具合はわかりにくいものです」

 ――どんな検査法があるんでしょうか。
 「それは脳の外来に行ってもらわないと、循環器内科ではわからないですね」
 「コレステロールを下げるかどうかですけどね。この値は上限を超えてますよね」

 ――ええ。その場合はどうすれば。
 「コレステロールを下げる薬を飲んでもらう。心筋梗塞もそうですけど、やはりコレステロールを下げる薬を飲んでもらいます」

 ――飲んだほうがいいですか。
 「そう思いますよ。だって脳梗塞になっているんだから」
 ――(カミさんが)食事でがんばってもダメですか。
 「いやいや、そういう人もいますよ。でも、私だったら飲みますけどね」


 ――入院していたK病院の3D-CTデータで、左頸動脈の分岐地点で異常がみられる。これはどう対処すればいいのですか? 診療科としてはどこに?

 「脳外科。どうすればいいか聞いてみてほしい」
 ――入院していたK病院で、ということですか。
 「そう」
 ――(カミさんが)ここの脳外科はダメですか。心臓もこちらでご厄介になっていますし、一緒のほうが」
 「わかりました。それじゃあ、18日はどうですか? いいですか。CTデータも渡しておきますから、脳外科の診察を受けてください」

 ――脳梗塞のほうはそれでやります。あと、頻脈の件ですが。
 「ドキドキするのは原因がはっきりしない。
 普通だと、ホームモニタリングをしているので、不整脈が出るとこちら(病院)に送信されるんだけど、それはないし。
 携帯心電図計をお貸ししますから、ドキドキしたとき胸に当ててもらって、どんな心電図になっているか、脈がどのくらい上がっているか、検査をやってみたらどうですか」

 ――はい、そうします。
 「今日、携帯心電図計を渡しておきますから1週間測ってください。その間、異常がなければ、もう1週間延長できますから」
 ――わかりました。
 ……………………

 ということで、記録は脳梗塞関連の診断だけにし、残りは注3参照。

 さて、今日のMRI画像でわかったことを、ここでまとめておきたい。

*69歳で、ラクナ脳梗塞という新たなステージに立ってしまった。残念のひとことだ。
*心臓+脳という、重い荷物を背負った残日の日々になる。
*心臓➜ペースメーカー、脳➜薬+生活改善という解決策がある。

 追い詰められた状況とはまさにこのことで、どげんもならん……と言いたいところだが、こればかりはどげんかせんといかん。であるならば、だ、

*70歳の平均余命15.08歳を寿命が尽きる歳と仮定し、あと15年余、楽しく生きて
 みよう

 と、思い定めるのはどうか。

 体は不調そのもの。けれども、今は、ある意味、すっきりした気分ではある。
 脳梗塞に関しては決着がついたからだ。

 ラクナ梗塞については、よれよれ日記の第004回でも勉強した。もう一度おさらいをし、二度とそのアタックを受けないよう、防御を固める。

 うん、目標がはっきりすると、なにやら気分がたかまってくるなあ。
 気合いだ、気合だ、気合だ~ア~ッ!
                                 【018・ラクナ梗塞という十字架 了】

◆参考データ
*注1 診察室で交わされる医師との会話は、患者にとっては非常に重要なものだ。わたしも、先生の話を聞き逃すまいとしてメモを取る。しかし、ちょっとこみいった話になると、メモが追いつかない。だったら、録音すれば簡単じゃないか。
 それで、以前、ボイスレコーダーを置いて話を聞いたことがあった。すると、受診後、病院の職員に呼びとめられ、「当院では録音禁止なんですよ。テープを消去していただけませんか」と言われた。
 えっ、消去?
 そんな、むちゃな。
 思わず、何か違法なことをしましたか? と聞き返した。
 いえ、そういうことではなく、当院の規則ですので。
 …………
 と、書きはじめたが、この話の顛末は長くなるなあ。時期を改めてまとめることにしよう。
 とにかく、今は、レコーダーを出すことはやめ、鞄の中に入れておく。録音スイッチはONにし、音声起動録音機能で、自動的に録音のON・OFFができるようにしておく。これで話の聞き逃しはなくなった。

*注2 MRIで撮れる画像の特徴など、わかりやすく解説したサイト。
*http://ishikokkashiken.com/mri-2/
*http://nvj.blog.jp/archives/7887507.html
*なお、脳梗塞をよりよく理解するためには、脳の構造を知っておいたほうがいいと痛感した。参考になるサイトは下記。
*https://rehatora.net/%E8%84%B3%E3%81%AE%E9%83%A8%E4%BD%8D%E3%81%A8%E5%BD%B9%E5%89%B2%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%8F%E8%A7%A3%E8%AA%AC/
*https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%8B_(%E8%84%B3)
*http://www.brain-studymeeting.com/str/nokan/

*注3 診察の記録の続き
――PMTはあったんでしょうか、なかったんでしょうか。
「なかったんです」
――心電図はK病院から届きましたか?
「きました。要するにあれは心房細動でいちばん早く打つレートに設定しているから、それで打っていたんですね。だから130で打っているんで。
 PMTかどうかはその時点ではわかりずらいんですけど、心室をペーシングしたときに、心房のほうに伝導がなければPMTは起こりえないので、それはPMTではないですね」
――PMTという判断はだれがされたんですか。
「それは向こうのSJMの担当者。でもわかりずらい。PMTだと思ったんでしょう。
 でも、僕たちが精密に検査するとPMTではない、ということです」
――では、現象としては、あれは?
「要するにマックストラッキングレートといって、いちばん最高のレートで打っているということです。たとえば130に設定していたら130に。
――(意味不明なので、質問のしようがない))
「つまり、心室をペーシングする、と言うこと」
「要するに、心房細動になると1分間に300にもなるけど、それを心房リードで拾って、でもあまりにも速く打つと心臓がとまってしまうので、僕たちが最高トラッキングレートを設定します。
 だから心房細動になった瞬間は最高レートでいくんですね。しばらくするとペースメーカーが心房細動だと確認して、今度はモードスイッチという状態に入ります。それが働くと自動的に60とかになりますので」
――すると、そうなる間、患者としては変な気分、気分の変調を感じて訴える、ということですか。
「そうです」
「心房細動でないときに、心室をペーシングして心室から心房への伝導があるかどうかをみないと、PMTがあるかどうかはわからないんですね」
――この前は起きていないとして、もしPMTが起きるとどうなるんですか。
「理論的にはPMTは起きないので心配する必要はない」
「心室から心房への伝導は、EPSをするとだいたい(患者の)半分ほどはいる。でも、あなたは伝導が起きないタイプなので、ペースメーカー起因性のPMTは起きません、理論的に」
――なるほど。室房伝導がないとはどうやってわかるのですか。
「それは心室を刺激して、心房に伝導するかどうかテストする」
――というと、単に心房細動を自覚してあんな騒動になったということですか。
「ええ」
――とすれば、心房細動はまたあるということですか。
「みてみないとわからないですね。
 心房細動になるとデータが送られてくるはずなんですよ、設定上は。
 それに、心房細動が起きると自動的にモードが切り替わる。それもデータが送られてくる。それがあんまりないというのはちょっとね、不思議なんですね。だから携帯心電図計で様子をみてください」
――わかりました。あっ、もうひとつ。期外収縮。わたしの期外収縮というのはどのくらいの程度なのですか。
「前はね、房室ブロックがあるのでなんとも言いづらいですね。補充収縮があるので、それ(補充収縮)か期外収縮か、判断しにくい現状があるので」
――この「Lown分類による重症度判断表」でいうと、わたしの期外収縮はどの程度になりますか。
「グレードでは1ぐらい」

 以上が、診察時のやりとり。長い時間ありがとうございました。
 診察待ちの患者さんが長蛇の列になり、迷惑をかけたなあという思いはある。う~む、先生への質問は、なんとか短縮しなくちゃいけん。
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Contents
【001】アッ!ろれつが回らない
【002】梗塞とは細胞壊死のこと
【003】アテローム血栓性脳梗塞
【004】
ラクナ梗塞は15mm以下
【005】心原性脳塞栓症はコワイ
【006】
MRIは検査なしになった
【007】
脳梗塞の黒幕は動脈硬化
【008】退院できない眠れぬ夜は
【009】
アテローム血栓が原因?
【010】
医者の怒声が響いた面談
【011】心臓までおかしくなった
【012】
助けて!深夜の心臓異変
【013】
入院生活ともオサラバなり
【014】
MRI撮影ができない病院
【015】
ペースメーカーは異常なし
【016】
MRIで脳梗塞が見つかった
【017】
頻脈の大波小波に翻弄!
【018】
ラクナ梗塞という十字架
【019】


サイト運営の青爺より
68歳でペースメーカーを
植込んだ隠居じ~さんが、
69歳で脳梗塞の発作で倒れ、
どげんもなら~んと大パニック。
救急車で運ばれた先では
なんとも不可解な治療を受け、
良くなったのか悪くなったのか。
ホントにどげんもなら~ん!









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【006】MRIは検査なしになった
【009】アテローム血栓が原因?
【012】助けて! 深夜の心臓異変
【015】ペースメーカーは異常なし
【018】ラクナ梗塞という十字架